第37話・2人の魔王

「ふ~ん。アンタも苦労したんだねえ」

「ごめんなさい無能で」

 操作パネルやシャンプーの使い方がわからず水風呂で済ませていたパルミナ(くさい)は、よだれまみれになっていたランチュウと一緒に魔王専用風呂に入っていた。

 久しぶりの温かい風呂、しかも薪ではない魔法の電気とガスでかしたシャワーと、使い方を教わったシャンプー類で体を綺麗に洗ってからの話である。

「こっちもあんまり役に立ってるたぁ言えねーよ。まだ調査もロクにできてない段階だからねえ。魔海樹を調べて行きゃ、そのうち何かわかるかと思ったんだけど……」

 情報交換を終え、ゆったりとピンクの湯に浸かる2人。

 温度は湯沸かし器が自動調節してくれるが、その水流にまれるランチュウは、パルミナの胸にはさまってしのいでいる状態である。

「何もわからなかったのですか?」

「うんにゃまっさか~。さっきわかったばっかりだけど、人間の姿になった獣人たちが街で暮らしてたのを見つけたよん」

わらわの部下たちは、みんな死んでしまいました……」

「そりゃイベントシナリオのせい、不可抗力ってもんだ。魔海樹に死んだ魔獣人たちの魂がストックされてたけど、育成が難しくて後回しにされてるみたいだねえ。街の魔海樹で生産してNPCに育ててもらう手もあるけど……もうちっと状況が変わってからの方がいいかな」

 変わらなければ、自らの手で変えるのがランチュウの主義である。

「とにかく、この件は仲間と相談だね。そろそろ上がろっか」

 風呂から出て脱衣所で体をく。

 パルミナはあまり汗をかかない体質らしく、毛布サイズのバスタオル1枚で全身を拭けるので手間がかからない。

「ドライヤーの使い方はわかったかい?」

 ブォーッと吹き出る温風を利用して、パルミナの髪につかまってブラブラ遊びながら会話するランチュウ。

「はい。これってとっても便利ですね」

 機械音痴のパルミナも、さすがにスイッチの単純なドライヤーで四苦八苦する事はなかった。

「これならガスレンジの使い方くらいは覚えられそうだねえ」

「そうですか? でもお風呂のアレは無理そうです」

「電源と湯沸かしのスイッチ押すだけなんだけど……」

 どうやら目の前に3つ以上のボタンがあるとパニックを起こすタイプのようだ。

「こりゃ炊飯ジャーは諦めた方がいいな。確か棚に文化鍋があったはずだ。あれを使おう」

「何に?」

「お米をくんだよ」

「お米って何ですか?」

「そこからかー」

 文化的生活への道のりは遠そうだ。

「おやランちゃん」

 脱衣所を出ると、ナーナが洗濯物の片づけをしていた。

 ランチュウが撒き散らした食料は、すでに仕分けされ部屋の片隅に積み上げられている。

「パルミナ様の前ではしたないねえ。前くらい隠しなさいな」

「へへ~ん、やなこったー♡」

 小さな子供のように裸ん坊で走り回るランチュウ。

「あらナーナ……どうしてここにいるんですか?」

 パルミナはまだ事態がみ込めきれていない。

「さっき話した超空間勝手口で呼んだのさ」

 パルミナをテイムした結果、オルテナス一家に危害が及ぶ可能性がなくなったので、巨大な魔王の世話を押しつけようと呼びつけたのである。

 オルテナスも管理人室と厨房のチェックに向かい、ココナナはそこらへんでコロコロしているはずだ。

「別に初めましてって訳でもねーだろ?」

 樹王時代のパルミナは各所の端末樹をチェックして回っていたので、オルテナス夫妻とは何度も顔を合わせている。

「それはそうですが……ところでランチュウさんって女性ではなかったのですか?」

 股間の子象さんが小さすぎて見えなかったらしい。

「いまは男だよ。前世は女だったけど」

「……………………」

 情報量が多すぎて頭がパンクしかけるパルミナであった。

「そうそうランちゃん、さっきうちにゴンゾーラさんが来たよ」

「ゴンゾーラ?」

「中枢樹の直属だった中位管理者で、マスペペって言うでっかい魔獣さんだよ。魔王剣を見つけたから、ランちゃんにどうにかして欲しいって」

「魔王剣?」

 さっき聞いたぱかりの、パルミナが落としたという範囲攻撃用の剣なのは即座に理解しているが、わざわざゴンゾーラ自ら、しかもパルミナではなくランチュウに依頼する経緯がわからない。

「元は樹王鍵、世界樹ネットワークのマスターキーさ。大きすぎてランちゃんにはあつかえなさそうだけど、パルミナ様がいるなら平気だろ? 2人で取りに行ってやっておくれよ」

「ソイツ、何でアタシの事知ってんのさ?」

「マスペペは中位管理者だからねえ。そこらの魔獣から聞くとか、他にもいろいろ情報網を持ってるって噂だよ」

「ふ~ん……できれば直接話を聞きたかったなあ」

「うちの端末にメールを入れといてくれたよ。あとで読んどきな」

「そりゃ有難い。なんかいい情報あるといいねえ」

 どうやらゴンゾーラはパルミナと違って頭の出来がいいらしい。

「中位管理者なら、ヘスペリデスの侵食を魔王とは違った視点でとらえてるかもしれねーな」

 肝心の魔王がアレな感じだったので、こうなったら部下に期待しようと思うランチュウであった。

 正確には中枢樹の配下らしいが、それはそれで都合がいい。

「ナーナさん、妾はお腹が空きました」

「私には無理だよ。ジャガイモく程度なら手伝えるけど。あと樹王様専用キッチンの事ならランちゃんに聞いた方が早いね」

 ナーナは管理人室のシステムキッチンを使いこなしつつあるが、原理まで理解している訳ではない。

「ランちゃん、頼んだよ」

「へ~い。じゃあパルミナ、コンロの使い方はあとで教えてやっから、まずは服を着よっかね」

「はぁい……ああっまた体が勝手に!」

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