第29話・〇〇〇〇には勝てなかったよ……

 嵐が収まった時、戦場に立っているのはショウタ君だけであった。

「うっわーもうメチャクチャッスよ……」

 宝物の山はその大半が崩壊し、金銀財宝(換金どころか持ち出し不可)はステージ中に散乱、まるで学級崩壊を起こした保育園のごとき惨状である。

「はてさて生存者はいるッスかね?」

 ゴチャゴチャになった宝物殿を探すと、クマ井さん連盟の3人は、それぞれの獲物を抱えて仰向けに倒れていた。

 リアクティブアーマーは財宝の破片や大剣や大槌の衝突と落下の衝撃でダメージ蓄積が限界に達したのか、粉々に砕け散っている。

 反してショタロリ団の面々は、まったくの無傷であった。

「さすがムッちゃんのリアル知人だけあって、みんな腐れてるッスね」

 地面に激突する際、全員がショタアバター(と男装ロリアバター)を庇って背中から落ちたらしい。

 そして3人とも満面の笑みを浮かべている。

「おっふぁ~幸せ~♡」

「こっちはロリだけど男装してるから実質ショタだよね?」

「うっひゃーこの子むっちゃ可愛いっ♡」

「ぐへぇひゃひゃひゃひゃっ! うっわーもうくすぐるなってばぁ!」

 アッシュにコチョコチョされてゲラゲラ笑うランチュウ。

 空中でどんな偶然が起こったのか誰も知らないが、ランチュウはアッシュのヘソ出しキャミソールに頭から突っ込んでいた。

 襟元から下半身がはみ出して、アッシュのお腹から顔を出すパイルドライバー状態である。

 それをアッシュが抱きしめながらアナログ操作の妙技でコチョコチョしているのであった。

「ひゃひゃひゃひゃ~~~~っ! もうやめて息が苦しいっ!」

 己の肉体を脳内仮想空間から遠隔操作しているランチュウだが、痛覚や触感は普通に存在するため、くすぐられればこそばゆい。

 フルダイブVRでもない普通のゲームではありえない現象だが、ヘスペリデスはランチュウにとってゲームであると同時にリアルでもあるのだ。

 そして子供の体は、お肌が敏感で感度良好と相場が決まっている。

「降参したらやめたげるよ! だから絶対負けを認めないでねデュフフ……」

 恐るべき降伏勧告であった。

 きっとアッシュのプレイヤーは視点を1人称に切り替え、PCモニターにアップで表示さるランチュウのお尻を眺めてウットリしているに違いない。

「わかった降参! アタシたちの負けだから離し……げえっ⁉」

 仮想更紗が仮想空間で仮想メニュー画面を開いたものの、降伏に必要なカーソルがどこにもない。

「しまったリーダーはアタシじゃねえ! ムッチさん早く降さあひゃにゃひゃはひゃっ⁉」

「ん……? ひょっとして触覚デバイス使ってる?」

 まだ開発途上で市場には出ていないが、ネットを探せば触覚を得られる機械を作る変態など星の数ほど存在する。

 アッシュはランチュウを、そういった技術開発オタクの1人と誤解したらしい。

「チャ~~~~ンス♡」

 好機とばかりに両手をワキワキさせる腐れ変態もといアッシュ。

「よっしゃー、ここはクマ井さん連盟秘蔵のテイム技を披露しちゃおっかね~!」

 コチョコチョがナデナデになった。

「わっひゃ~へっふわわわわほわっふムッチさん助けてー‼」

 背中がゾクゾク震えている。

 ランチュウは半分魔獣扱いの超魔王なので、いつテイムされてもおかしくない。

「これ放っておいたらどうなるのかな……?」

 ちょっとだけ興味が湧いて来たムチプリンであった。

 奴隷以下のペットと化したランチュウ……これは見てみたい。

「さっきレスキュー要請しても無視されたし、このまま放置しとこう」

「くっころ~~~~‼ うひぇ、あへひゃひゃひゃひゃ~~~~おほぉっ♡」

 次第にアヘ顔へと転じるランチュウ。

「……ボクあの顔嫌いなんだよね。はいはい降参降参」

 BL趣味の偏ったムチプリンがギブアップの手続きを終え、ランチュウはようやくアッシュの魔手から解放されるのであった。

「え~っ、もう終わりなの? もっと抵抗してくれてもいいのに~!」

「アッシュいいなあ」「こっちはコチョコチョしても無反応なんだけど?」

 マイアとオルテナは不感症な2人に不満顔、嫉妬の視線をアッシュに注ぐ。

「まあ勝ったからいい……訳ないでしょ! もっとナデナデさせてよ~♡」

「うへえっお断りだよ! 絶対コチョコチョなんかに負けたりしない‼」

「はいはいオチが見えてるからネタはやめようね」

 メチャクチャな試合はしっちゃかめっちゃかな結果に終わったが、とにかくショタロリ団が結成されてから約2年、初の黒星であった。

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