第21話・伝説の樹

 森の街ナパースカの公園には伝説の樹が存在する。

 樹の下で女子の方から告白して生まれたカップルは永遠の幸せを得られるとか、決闘するとフレンドになれるとか、根元には返事がないただの屍が埋まっているとか何とか。

「まさか街の中に魔界樹があったなんてねえ」

 大口を開けてあきれるランチュウ。

 中央広場から戦術的撤退を遂げて公園に来たショタロリ団は、噂に聞いた伝説の樹を探していた。

 ひょっとしたらと気づいたムチプリンの提案である。

「大きさはともかく、デザインと色が違いますよ?」

 ソルビットは信じられないと言いたげな表情入力で、伝説の樹を見上げていた。

「いや見た目は世界樹っぽいけど、これ確かに魔界樹だよ」

 世界樹のオペレーターである樹王のスペアが変容した魔王のボディを持つランチュウは、一目で魔界樹の識別ができる。

 正確には最近何となく見分けられるようになったらしい。

「外見だけ普通の樹になってるッスかね?」

 実際は世界樹が変貌した魔界樹でも、それは街の中に存在してはならないモノである。

 なぜなら市街地には魔界化と魔獣の侵入を防ぐ結界が張られている設定だから。

 存在してはいけない物体が存在し続けるには、外見だけでも何か別のモノになる必要があったのだろう。

「ホントはどーかはアタシのシッポを接続すりゃわかるし、他の魔界樹ネットワークにも繋がるかもしれないよ? さ~て接続端子はどこかな~?」

 裏側にあった。

「なんかチューリップ味あるねえ」

 というか、旧式の丸いチューリップ型小便器そのものだ。

 むしろ中に黄色いトイレボールが転がっていないのが不思議である。

「また便器かいな……ここに座んの? やだなあ」

 何だかんだと言いながらも、かぼちゃパンツからプリッとお尻とシッポを出して穴に突っ込むランチュウであった。

「あなたパンツ脱げるの⁉」

 仰天するムチプリン。

 ヘスペリデスは、いや大抵のゲームはそうだが、キャラクターの下着はデフォルトで脱げない仕様になっているのが普通である。

「オイラにも生尻見せるッスよ!」

「できれば前もお願い!」

 腐女子2人がゾンビのようにランチュウへと群がった。

 表情入力とはいえ目が血走って怖い。

「この子象さんはアタシんだ! 金もらったってショタ以外に見せる気ゃねーぞ!」

 かぼちゃパンツの中身を死守するランチュウ。

「ランさんの邪魔しちゃダメですよ」

 ソルビットがショタ厨腐女子どもをムンズと捕まえた。

 いくら機動力と運動性を重視したソルビットでも、非戦闘職に力負けする事はない。

「ほら、いまのうちに……」

「サンキューソルさん♡」

 ソルビットが腐れショタアバターどもを『ここは俺に任せて先に行け』と言わんばかりに抑える隙に、ランチュウは短いシッポの先を端子に挿入した。

 股間はアイテムストレージから出したココナナの毛布で覆っている。

「ほうほう出た出た」

 シッポから魔界樹から大量のデータが流れ込み、たちまちランチュウの視界に表示された。

「さすがにパルミナの痕跡はないねえ」

 プレイヤーアバターが混ざっているランチュウと違って、完全に魔獣扱いの魔王パルミナは市街地に侵入できない。

「それにオフラインだ。どこにも繋がってない」

「ランチっち、ここは他の魔界樹と接続しちゃダメッスからね?」

 伝説の樹が魔界樹と化し、街ごと魔界に呑まれるかもしれない。

 少なくとも設定やストーリーに矛盾が生じるリスクは避けるべきだろう。

「わかってるって。そおそもこの魔海樹、通信機能が死んでるっぽいし」

「そりゃよかったッス……」

 どうやら元々何事も起こらないようになっているらしいが、AIの判断によっては自動生成シナリオ機能がどう反応するかわからない。

 ヘスペリデスのシナリオは荒唐無稽で定評がある。

 内容が矛盾とトンデモ展開に満ち溢れ、本当に何が起こるか予測できないのだ。

 残念な事に、AIだけでなくスタッフ制作の本編シナリオも――

「ちょいと中を覗くだけだよ。す~ぐ終わるからさあ」

「魔獣の生産もダメだからね」

 ムチプリンが念を押す。

「へいへ~い。でも何が作れるかは確認しとかないと……犬猫牛豚鶏馬? 家畜とペットばっかりじゃん!」

「そりゃ市街地ッスからね」

 ただしネコや小型犬なら、一度に数十匹の生産が可能らしい。

「ペットはむやみに増やしちゃダメだよ?」

 飼い主の責任が問われる問題である。

「へ~い……おや人間も作れるのかい」

「アバターでもNPCでもない人間が生まれるかもッスよ?」

 プレイヤーやAIの制御を受けない、もの言わぬ死体同然で立ちっぱなしの無人アバターが爆誕するかもしれない。

 もちろんデフォルト状態の下着姿で。

「ホラーな展開しか予想できませんね」

 ソルビットもショウタ君の意見に賛同した。

「やめてボク恐怖映画とか苦手なのよ」

 ムチプリンはガタガタ震えながら青ざめている。

「だからわかったってば……う~ん、真新しいデータは入ってないねえ」

 いままで魔海樹の機能と無関係な伝説の樹を演じて来たせいか、空っぽの転生リスト以外は、成立したカップルやフレンドの名前しか掘り出せない。

『おっ、超魔王陛下様じゃん。何やってんの?』

 作業に熱中していると、茂みの向こうから4名の見知らぬアバターが現れた。

 ショタロリ団の面々は気配でそれを察知していたが、まさか挑発されるとは思わず、目を白黒させるばかりである。

 達人級以上しかいない、しかも称号持ちまで擁するハイレベル集団に喧嘩を売る輩はあまりいない。

 戦えば異次元プレイで瞬殺されると知っているからだ。

 そして喧嘩を売れるだけの腕を持つ熟練者は、殺意を隠して表向きはそれなりに礼儀正しいのが普通である。

 挑戦者は男性型の身綺麗なアバターが3名で、女性型が1名。

 女性はともかく男性2人はトゲトゲ重課金強化装備丸出しで、隠そうともしていない。

『おトイレ? まだ1人じゃできないんだー』

 無表情で笑う男性アバターたち。

 まだ喋りながら表情を動かす入力技術を習得していない模様。

『ちょっとやめなよ! 女の子に恥かかせるなんてサイテー‼』

 女性アバターが高速タッチのテキストチャットで男どもを窘める。

 おそらく男3人は、中身が本当に女子なのかもわからない女性アバターを巡り、水面下で闘争中なのだろう。

 ここは伝説の樹。

 女性から告白されてカップルが生まれるといわれるナパースカの名所なのだ。

 男どもは彼女の前でカッコつけて告白されようとでも思っているのか、剣を抜いてショタロリ団を威嚇する。

「PvPって知ってんだろ? お花摘み中に悪いけど、ちょいと俺たちにつきあってくんないかな?」

 10メートル圏内に入ってボイスが通じるようになった。

「まさか、あんたらnoobヌーブ……」

 noobとはヘタクソや迷惑プレイヤーを差す蔑称である。

 下手だろうが初心者だろうが、普通は新規勢を大切にする熟練者なら口にしない単語であるが、このような無頼の輩に遠慮や情けは一切無用とランチュウは考えている。

「ああん? 俺たちゃ、ここらじゃちょいと名の知れたパーティー【†紅闇の夜叉団†】様だぜ? ヘタクソどもと一緒にされちゃ堪んねーっつーの」

「そうそう。まあカワイソーだから、こっちは男2人だけで相手してやるよ。ほらさっさと勝負しやがれっての」

「ベットは100ラッグもありゃいいだろ。俺たちゃ金が欲しい訳じゃねーからな」

 ヘスペリデスのPvPは不意打ち上等のPKとは異なり、掛け金やアイテム類を賞品として提示する義務がある。

 ただしカツアゲや違反行為を防ぐため、リアルマネーやレア&課金アイテムの譲渡は禁止。

「変なのに絡まれちゃいましたね」

 かなりイキっているが、喧嘩慣れしていないと一目でわかった。

 女性アバターに男らしさを見せたいのだろうが、どこか方向性がおかしい。

「あれで女の子にアピールしてる気なのかねえ? ガラが悪いとモテないよ?」

 しかも彼らはショタロリ団の中身が全員女性プレイヤーだと気づいていない。

 それなりに広まっている情報のはずだが――

「……………………どうする?」

 接続を中断せず、シッポをお尻ごと便器もとい接続端子に繋ぎっ放しのランチュウは、リーダーのムチプリンに意見を求めた。

「ランチュウは殺りたい?」

「めんどくせー興味なし」

 イキリザコなどランチュウの敵ではない。

「私もパスします。初心者狩りの趣味はないので」

 ソルビットも降りた。

「オイラは動画撮影に専念するッスよ」

 ショウタ君は元から戦力外である。

「できればボクも降りたいけど……ダメかな?」

「うんダメ」

「ガツンとやっちゃってください」

「仕方ないなあ……」

 ムチプリンはストレージからヒーラー用の杖を取り出そうと――

「チビデブメガネ1人かよ? ちょっと舐めすぎじゃね?」

 デブと言われてムチプリンの動きが止まった。

 PvPを受諾したのでフリーチャットの条件は変更されている。

 市街地でのPvPは公開決闘扱いで、対戦者同士やギャラリーにもわかりやすいように、ボイスとテキスト両方での双方向通信が可能となり、その効果範囲は半径50メートル。

「あんた生きて返さないよ」

 ムチプリンの目つきがガラリと変わった。

「うっわー怒らせちゃった……」

「こりゃガッツリ撮影するっきゃないッスね!」

 ショウタ君はデストロイな殺戮の予感がして生配信の準備を急ぐ。

 ムチプリンはポッチャリメガネショタのアバター使いなのに、デブ呼ばわりされると即おこマジおこ激おこプンプン丸ムカ着火ファイヤーカム着火インフェルノォォォオオオゥ激おこスティックファイナリティぷんぷんドリーム状態へと流れ変わった的な発動編になるのだ。

「泣いちゃっても知らねーよ?」

 装備した剣を振り回し、操作の腕前を披露する2人。

「なんて酷い……」

「素質とセンスが絶望的だねえ」

 ソルビットとランチュウが将来を諦めるほどのヘタクソぶりであった。

 たとえヘスペリデスを10年続けたとしても、まるで上手くなってくれそうな気がしない。

 それでもアナログ操作で剣をブンブン振り回しながら無表情でムチプリンに近づくヒャッハーなイキリコンビ。

 すでに俎上の鯉と化しているとも知らずに。

「さっさと武器出せよ……あれ?」

 剣を持っていた右腕は、肘から先が消えていた。

「なん……あひゃあっ⁉」

 振り向くと、もう1人はすでに頭と胴体だけになって転がっている。

「ムッちゃんはパーツ取りの名人だからねえ」

 ランチュウやソルビットほどではないが、運動性も尋常ではない。

 アバターの速度はステータス配分と装備の重量に左右されるシステムだが、テンポはプレイヤーの技量次第で、CPUの処理速度と通信環境が許す限り、いくらでも上げられるのだ。

「ムッチさん、ほぼあの技だけで宇宙人級に認定されたんですよね……」

 そして相手の至近距離で死角に入るムチプリンの高速機動は、ランチュウやソルビットならともかく、ズブの素人に対応できる領域ではなかった。

 特に練習したつもりはないが、ランチュウと同行しているうちに速くなってしまったらしい。

「中ボスクラスのゲジゲジ魔獣から足を全部ちぎった時ゃ、アイツ化物かと思ったよ」

 人外魔境のランチュウに言われては世話はない。

 クロフサムカの子供を見せた時は散々嫌がったのに、なぜパーツ奪取なら平然と虫系魔獣に触れるのかは、本人にもわからない。

「どんな入力すれば、あんな事ができるんでしょうね……?」

 ムチプリンは相手の手足を何の抵抗もなく素手でもぎ取っていた。

 まるで、ぶら下がったリンゴをむしるように。

 幼児がオモチャを壊してポイポイ投げ捨てるように。

 しかも投げられたパーツは物理エンジンが暴走し、地面で反射して天高く舞い上がるのだ。

 そして、いつまで経っても落ちて来ない。

「うっひゃああああぁぁぁぁああああっ⁉」

 手足をすべて失いフィールドに転がされ、なす術もなく叫ぶ男たち。

 傍観していたはずのイキリザコ3号(仮名)も、いつの間にかイモムシ状態にされていた。

 ゲームなので痛覚はないが、それでも悲鳴を上げざるをえないスプラッターな光景である。

「確かヘスペリってR12指定……」

 18禁のゴア表現にしか見えなかった。

「あれでホラーが苦手って、よくわからない精神構造だよねえ」

 バグ技の一種で、ちょっとした掴み入力のコツで取れるらしいが、こればかりはランチュウにも真似できない。

 大勢の熟練プレイヤーたちが散々試したものの、誰一人として再現できなかった荒業である。

「防具破壊はヘスペリの華だけど、ルールにないアバターの部位破壊で、しかもあんな簡単に奪えるのはムッちゃんだけだよ」

 ショタロリ団リーダーは伊達じゃない。

「よくバグ扱いされませんでしたね」

「運営の腕っこきデバッガーたちにも再現できなかったらしいよ?」

 原因を特定されない限り、修正パッチ配布の心配はない。

 そして修正プログラムを組むカバゲームスの制作スタッフは、ほぼ全員が退職している。

「それに『止まらなければバグじゃない』だっけ?」

「あのプロデューサー、まだカバゲームスにいるッスよねー」

 それなら何をやっても許されそうだ。

「はい終りっと」

 野郎どもの首をクルッと引っこ抜いたところで戦闘はあっさり終了。

 放ると物理エンジンの暴走で首がすっ飛んで行った。

 ただし首が抜けたところで死亡判定が下されるため、幽霊たちは飛んで行った首ではなく、地上に残されている。

「これでもボクはヒーラーで、パーティーじゃ最弱なんだよ? 修行して出直しな」

 幽体になった男たちに水兵戦士なポーズを決めるムチプリン。

 ……地縛霊は地縛霊にしか見えないので、方向は間違っているかもしれない。

「最弱は非戦闘員のオイラッスよ?」

 ショウタ君はムチプリンより低ランクの達人級である。

「ランチュウを後追い撮影できる怪物のどこが最弱なんだか」

「ムッちゃんはヒーラーだけど、敵専門で回復やってる変人じゃないッスか」

 ソルビットが殺し損ねた敵プレイヤーを、こっそり全回復させるのがムチプリンの主業務である。

 ヘスペリデスの魔法効果は無差別で誤射誤爆自爆は当たり前、魔獣すら回復魔法の恩恵にありつけるルールなのだ。

「うちの戦闘担当どもが傷一つ負ってくれないからね。回復魔法の使いどころが他にないんだよ」

 もちろん回復した敵プレイヤーは、例外なくランチュウの元(死地)へと送り返される。

『仲間がご迷惑をおかけしてすみません』

 その時、イキリザコパーティーにいた女性アバターからテキストチャットで謝罪された。

 テキストだけで声が来ないのは、戦闘終了でチャットの条件が変わり、10メートル以上離れると相互フォローがない限りボイスが通じないからである。

『職場のイケメンたちに声をかけられて、あんまり人数多かったから、ヘスペリで私とパーティー組んで、誰が一番強いか決めようって話になったんです』

 いきなり自分語りを始める女性アバター。

 いままで無表情だったのに、いきなり身振り手ぶりを交えての高速入力であった。

 テキストチャット限定なのに、ご丁寧に口パクまで入力している。

「アンタ熟練者だったんかい」

 リアルイケメンたちを立てて、いままで初心者のフリをしていたらしい。

『普段はおとなしいのに、このゲームは初めてだって言ってたのに、ログインした途端にイキり始めちゃって……』

「他のゲームで暴れてるクチかもしれないッスね」

 きっと格上に負けて大量の暴言メールで噛みついたり、野良パーティーで初心者に暴言を叩きつける迷惑千万な輩に違いない。

「社会人なのに何やってんだか……」

 あまり他人の事は言えないランチュウがあきれ返った。

 よく就職できたなあいつら。

『あんまり酷すぎて見てらんなかったし、まさか宇宙人級に喧嘩売るなんて思いもしませんでした。おつき合いは3人ともお断りします』

 アバターの動きが止まっている。

 どうやら常設パーティーの脱退を入力中らしい。

 ひょっとしたらイキリザコたちのアカウントをブロックしているのかも。

「それがいいよ。あいつら人を見る目がなさすぎる」

 なにせ最後までムチプリンの中身が女性だと気づかなかった有様である。

『あとモフモフ超魔王国に入れてください』

 すでにクラン設立とメンバー募集は始まっているので、これで15人目の加入者であった。

 幽霊状態で待機中のヒャッハーたちの茫然とした顔が目に浮かぶ。

「うっわームッチさん相変わらず恋愛クラッシャーだねえ」

 ただし異性カップルにしか興味を示さず、ネカマは仕草で察して生温かい目で見逃すらしい。

「腐れ女に彼氏はいらぬ。男は男同士で恋愛すればいいのよ……デュフフ」

 ヒャッハー3人組で、正確には中身の推定イケメンたちをネタにカップリング妄想を始めるムチプリンであった。

 どうやって所帯持ったんだこの女。

「この際だし、あなたたち、つき合っちゃいなさいよ」

 何はともあれ、これで【モフモフ超魔王国】のクランメンバーはショタロリ団を含めて計19人。

 これからさらに増える予定であった。

 クラン入力のついでに相互フォローも交わし、ボイスチャットの通話エリアが拡大される。

「ところでランチュウさん、アバターは男の子なのに、どうしてチューブブラ着てるんですか?」

 新入りクランメンバーは以前から思っていた疑問を口にする。

 空気は読めない性格らしい。

「そりゃもちろんビーチクがないからさ!」

 断言するランチュウ。

 大抵のゲームはそうだが、ヘスペリデスの男性アバターは乳首が省略されている。

「でもブラで隠しちゃえば、存在しなくても、あるものと想像できるからねえ!」

 実はもう1つ理由があった。

 いまのランチュウには乳首があるので、正確にはモニター越しだと省略されて脳内仮想空間の仮想更紗アバターにも見えないのだが、どうしてもブラジャーを手放せなかったのだ。

 ただし羞恥心からではなく、ただショタのビーチクを独占したいだけで、乳首の存在がバレると厄介だと気づいたのは数日後の話である。

「そうだ、知人にもクラン入会を勧めてみます。それではごきげんよう!」

 チェックポイントの宿屋に行かなくてもクラン入会はセーブされるため、もはやこの場に用はないとログアウトする女性アバター。

 いまごろ地縛霊たちも宿屋でリスポーンしている頃合いだ。

「なるほどアイツらと顔を合わせたくなかったんだな……」

 妙に納得するランチュウであった。

 場合によっては宿屋でログアウトしないとプレイヤーが損をする事もあるルールだが、彼女はPvPに参加しなかったのでデメリットはない。

 ぴろろん。

「……あら?」

 ムチプリンにフレンド申請が3つ来ていた。

「あいつらか」

 手足をバラバラババンバンされ、しばらく地縛霊になっていたヒャッハーイキリザコ3人組である。

 宿屋でリスポーンしたところで、ようやくムチプリンの中身が女性と気づいてメールをよこしたに違いない。

「さすがは伝説の樹……」

 戦ったらフレンドになれるとか何とか。

「だが断る」

『3人でイチャイチャしてなさい』と返信した。

 本当にどうやって所帯持ったんだろうこの女。

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