第8話 わたしの家が牢獄に
この辺りからは記憶が曖昧で、もう小学何年生の時だったかは覚えていません。恐らく『わたし』が“小学三年生以上の時”の話としてお読みください。
母は、家を頻繁に脱走するようになりました。
脱走してた犯人は確かに母ですが、母ではありません。別の人格が『みゆきが望んだから』と言って、勝手に隙あれば出ていってしまうのです。
行く先は様々。その方法も様々。
母は無職でしたが精神障害二級として認められ、二ヶ月に一回、障害手当が振り込まれるようになっていました。
それは母が「私のお金だから」と主張し、母に管理させるのは危ないと判断していた祖母と叔母は「必要な時に言ってくれたら渡す」と伝えてましたが、あまりの母の強い主張とそれと共に引き起こす癇癪に疲れ果て、もう好きにしなさいと母が管理することに。(母のために支給されたお金ですし、母が管理するのは間違ってはいないのですが)
そうしたら母はそのお金で、バス、電車、タクシー諸々を駆使して、昼夜問わずあちこちに脱走するようになってしまいました。
ある時は途中で母が正気に戻り、どこにいるか分からないとちゃっかり持っている携帯で塚田に電話し、塚田が近くに何があるかと詳しく聞きだしつつ急いで迎えに行く。
ある時は深夜に脱走をはかり、何があったのか不自然な場所で倒れているところを発見され病院に担ぎ込まれると、家族ではないと引渡しはできないからとやはりしっかり持ってる携帯電話から固定電話番号を調べられ、病院から(もしくは警察から)電話がかかってくる。
前者はまだ楽でした。母の彼氏は車を持って居ましたから。でも、回数が多かったのは、残念ながら後者。
救急車の音恐怖症になりそうになったと前に書きましたが、この時はそこに追加して電話の音恐怖症になりそうでした。当時は固定電話がまだ当たり前でしたので、時間問わず固定電話が鳴る度に肩が跳ねました。
それと自分の情けなさでも、どうにかなりそうでした。
毎度毎度病院に運ばれたり、警察の方が保護してくれたり、悪運がいいのかそれとも母の他人格の仕業なのか、犯罪事件に巻き込まれることは幸いありませんでした。
日本といえど、毎日何かしらの事件が起きてニュースで流れる毎日。
わたしが母が家を出ていった音に気付いていれば。わたしが母から目を離していなければ。頭の中で自分を責めることばかりグルグルと回転し続けます。
行方不明になるのは大抵夜が多く、近所周辺を探すのは母の彼氏である塚田がしてくれました。祖母と叔母は、警察か病院からの連絡待ち。
上記にも書いた通り、大抵は警察か病院に母は保護されていたので、行方不明になった際の電話が鳴れば既に準備していた祖母と叔母が迎えに行きます。
けどわたしは案の定、当然留守番です。
「風夏は先に寝ていて良いからね。大丈夫だから」
そう祖母と叔母に言われて、一人家に取り残される。わたしは何の役にもたちません。
しかし、本来はこれが当たり前なんですよね。
けどこの時のわたしは、自分の年齢が憎かった。
なんで子供なんだろう? と何度思ったか分かりません。
そんな日が続くと、ある日突然、塚田が我が家に小細工を仕掛けるようになりました。
窓には二重鍵をつけられ、空気の入れ替えが出来る僅かな間隔だけ窓を開けられるように。
玄関には暗証番号を入力せず扉を開けると、けたたましいアラーム音が鳴り響く、近所迷惑としか言い様のない、本来なら防犯目的のものであろう特殊な鍵が。(いったい値段は幾らしたんだろう)
まるで家の中が書いて字のごとく、監獄のように成り果てました。
すると家族全体のストレスはウナギ登りに。
祖母と叔母は正社員ではありませんでしたがパートで働いており、祖母は少し遠い職場だったので出勤は朝早めに、叔母は昼前に出勤する代わりに夜は遅めに帰宅します。
昼はわたしが母と同じ部屋で過ごすという(学校へ行かない前提)約束の元、玄関のアラーム錠は解除するのを許されていたので叔母は比較的快適に出勤。
ですが朝早い祖母は違います。何度も鍵の存在を忘れ玄関を開けてしまい、耳をつんざくような音量のアラーム音が早朝に鳴り響きました。
イライラ、イライラ。
キリキリ、キリキリ。
家の中の空気は、常に重たいまま。
家族仲は不和になっていく一方でした。
料理するにも、刃物は隠した場所から持ってきて使い、終わったらまた母が見てないうちにしまって分からない場所に隠す。
夜眠っていても深夜に母を迎えに行くために起こされて、そのまま朝日が既に上り帰宅したら急いで出勤。
母が鬱で無気力状態なので、無職でも家事はまるで手付かずです。疲れていても家事は祖母と叔母のどちらかが絶対に片付ける。
アラーム鍵が設置されているから安易に出かけられず、鍵を一々気にしなければならないから面倒で仕事以外で外に出たくない。
これらが塵も積もれば山となり、ダメだと分かりつつも、祖母と叔母は母への八つ当たりが増えていきました。
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