髪の毛
@poyosis
髪の毛
僕は生活していると下から脂が押し寄せてくる。
僕はタンパク質とかで構成されている。
僕はみんなと集団で生活している。
僕は前頭葉辺りで生活している。
前頭葉の部分は特等席だと言える。
なぜなら、人の視点とほとんど一緒で、前方が見やすいからだ。
僕の住ませてもらってる頭の持ち主、つまり家主は88歳。
僕の予感では、家主はもうすぐこの世を去る。
ちなみに、僕は3歳。
人間の年齢でいうところの、80歳ぐらい?
僕の予感では僕も、もうすぐこの頭を去る。
どうせなら、家主と共に去りたいな。
こんな夢をどこかで抱いてしまっている。
毎日は凄く退屈だけど、ほのぼのしていて、僕は家主の生活が好き。
いつも縁側から庭の方を見ていて、春の暖かい日差しの中の蝶々が飛んでるのを家主と一緒に見る。
それはそうと、実は前頭葉が特等席である理由がもう1つある。
前頭葉が近いから、家主の思考が分かる。
側頭葉の奴らには側頭葉の情報が入ってきて、後頭葉の奴らには後頭葉の情報が入ってくる。
特に前頭葉は思考を司る脳の部分だから、僕は思考を知れる。
今はちなみに縁側で庭を見てる。
こんな感じで庭の蝶々が見飽きたら、たまに思考を覗いてみる。
ん、今は何も考えてないみたいだ。
まぁ、いいけど。
あと、家主は車椅子で生活している。
今、太陽の光が差してきた。
前頭葉の部分で良かったぁ。
太陽の光が気持ちいい。
家主の思考でも覗いてみようかな。
何を考えてるんだろう。
…。
なんだ、僕と同じ事を考えてた。
陽の光を満喫してるみたい。
すると、
「ん?動き出した」
車椅子が動き始めた。
どうやら自分では動かしていないみたい。
後ろから、娘が車椅子を押してるらしい。
「って、えっ!」
ズドンッ!
僕に土がたくさんかかった。
車椅子が前に押されて、縁側から落とされたみたい。
「はぁ、自分で起き上がれ」
と、娘はため息をついて言った。
家主は足が不自由だから、自力で起き上がるなんて難しい。
僕は状況が理解できなかった。
家主は30分くらいかけて、起き上がった。
縁側までなんとか戻って、また陽の光の中の蝶々を見た。
でも、すぐにやめて、車椅子で自分の部屋まで戻った。
自分で自分のベッドまで戻ると、家主はベッド横たわった。
思考を覗いてみる。
ん、何も考えてない?
あ、寝てるだけか。
家主はスヤスヤ寝ていても、僕は起きている。
でも、ずっと天井を見たまま。
正直、もっと庭を見ていたかったな。
それにしても何か聞こえるな。
部屋の奥の方から、
「あー、もう!」
と、昂った娘の声。
僕はずっと天井を見ていると、娘が視界に入ってきた。
入ってきたと思ったら、僕は大量の水をかけられた。
「うわっ!」
すると、家主は急に目が覚めた。
そして、娘はその場を去った。
突然、顔に水をかけられた家主の血流は早かった。
家主は凄く驚いている。
ようやく、僕は状況が理解できた。
娘が家主を虐待している。
すると、家主は上体を起こして、ボーッとし始めた。
少しの間、ボーッとし続けたあと、机に紙を置いて、何か書き始めた。
文字は読めない。
書き終えると僕は何か違和感を感じた。
いつもとは何かが違う。
そして、周りを見渡すと、側頭葉の奴らや後頭葉の奴らが体調を崩し始めた。
家主にも異変が出てきた。
僕もその異変を感じたので、一応、家主の思考を覗いてみた。
僕は家主からは
娘に対する謝罪の念と愛と許しを感じとった。
そうしてすぐ、僕は家主からは何も感じ取れなくなった。
しばらく、僕が天井を見上げていると、娘が視界に入ってきた。
そして、娘は家主の顔を覗き込んだ後、
少し舌打ちをしてその場を立ち去った。
髪の毛 @poyosis
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます