第311話 続きのない世界

「終わった……?」


 理解ができなかった。

 終わったって……【最弱聖剣士の成り上がり】が終わったってことか?

 もしかして、一巻打ち切りだったとか?

 ――いや、あの人気を考慮したらそれは考えづらい。予約の段階から重版かかりそうな勢いだったし。


 俺は真相を知るために、ライネリアへと迫る。


「話が終わったっていうのはどういう意味なんだ? なぜ【最弱聖剣士の成り上がり】は終わったんだ? むしろ、この作品はこれからが本番だったじゃないか」


 ひとりのファンとして、一体どのような終わりを迎えたのか知りたかった。

 今、目の前にいるライネリアというキャラクターがラスボスだと本人が語っていたけど……彼女は俺が読み進めていた話の中で登場していなかったはず。

 この謎を紐解くには、彼女が何者であるのか――それを理解しなければならないと思った。


「君は……一体何者なんだ?」


 率直に、疑問をぶつけてみた。

 これに対する彼女の回答は――


「私は……破壊神」

「は、破壊神?」

「そう。この世界を壊すためだけに生みだされたキャラクター……実際、私は本編の中であなたたちの暮らす世界を滅ぼす――それが、【最弱聖剣士の成り上がり】の最終回なの」

「なっ!?」


 ちょ、ちょっと待てよ。

 それってつまり……全滅エンドってことか?

 いくらなんでもそれはないだろ。

 あの流れなら、ラスボスのライネリアをラウルが倒し、ヒロインたちと幸せに暮らすってオチじゃないのか?

 何をどうしたら、そんな鬱展開になるっていうんだ?


「納得できない?」

「できるはずがない!」


 俺は思わず声を荒げた。


「これからコミカライズも始まって、人気がさらに高まっていこうとしている中で、どうしてそんな最期を迎えなくちゃならないんだ!」

「もう続きが書けなくなっちゃからだよ」


 これまでにない小さな声で、ライネリアは語る。


「作品が人気になればなるほど、注目度は増していく。そうなると、今度はもっといい作品に仕上げなければというプレッシャーが重くのしかかってくる」

「そ、それって……」


【最弱聖剣士の成り上がり】の作者が持つ心境……ライネリアはそれを代弁しているようだった。


「周りの評価が気になって、自分の書きたい話が書けなくなる。それは多大なストレスとなって、徐々に心を蝕んでいったわ」

「ま、まさか……」


 この流れはもしかして――


「ようやく気づいた?」

「……ああ」


 読者の期待に応えようと奮闘する作者。

 しかし、万人に受ける作品はとても難しい。実際、関連商品の売り上げが何百億もある大人気作品にだってアンチは存在しているのだから。


【最弱聖剣士の成り上がり】の作者は、それを気にしすぎたんだ。

 ゆえに、自ら筆を折る選択をした。


 その際、投げっぱなしになっているストーリーを無理やり完結させるために生みだしたのが――破壊神ライネリア。


 作者は、ライネリアにこの世界のすべてを破壊させるため、彼女をラウルたちの前に送り込んだのだ。


「なんてことだ……」


 ずっと好きだった作品の最後がそのような展開になっていたなんて……ショックではあるけど、だからといって本当に生きている俺たちの未来を閉ざされるのは間違っている。


 なんとしても、破壊神ライネリアからこの世界を守らないと。

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