第310話 ライネリアの思惑
俺たちの暮らしていた世界が消滅する?
誰にも倒されずにこの終わりのない世界で生き続けている?
ライネリアの語る内容は……恐らく、事実だろう。
なぜだか強くそう思えるんだ。
しかし……それなら、世界が消滅するという話は聞き捨てならない。俺がまたこの世界に転生したその日に戻ってきてしまったことと何か関係があるのだろうか。
「この世界が何者かの創作物であるという事実はあなたも承知のはず……だから、あなたは私以上にイレギュラーな存在なのよ」
「イレギュラーな存在?」
「そう……一体なぜあなたのような存在がこの世界に紛れ込んだのか……」
困惑の声。
恐らく、突然俺のような存在が現れたという事実に驚いているみたいだ。
……だから、ずっと俺を監視していたのか?
俺とライネリアが直接顔を合わせたのは、俺がこの世界に来てからだいぶ経過した後だったので何とも言えないが。
「おしゃべりはこの辺りにして……そろそろラスボスらしく振舞おうかしら」
「ラスボスらしくって――っ!?」
それはつまり、俺と戦うという選択を下したに他ならなかった。
最初はラウルたちを襲っていたライネリアに対して怒りの感情が爆発していた。冷静さを欠いていたと指摘されたらそうだと言わざるを得ないが……ともかく、こうしてライネリアと対峙して、ある違和感を覚えた。
彼女の言葉の端々には、どこか悲壮感のようなものが滲んでいる。本音を隠して、何かに徹しているような気配が……その辺りをもっと追及したいと思った。
ラウルたちへした仕打ちは看過しておけないが……まだ何か、重要な隠し事がある気がしてならなかったのだ。
「待ってくれ、ライネリア。俺はもっと君と話がしたい」
「私と?」
「君は自分をラスボスと言ったが……原作での君はどういった立ち位置なんだ?」
「……なぜ、そんなことを?」
「この作品のいちファンとして、ずっと続きが気になっていたんだよ。WEB版も愛読していたし、書籍の第一巻は予約済み。そのうちコミカライズが連載されるようになったら、そっちの単行本も揃えようと楽しみにしていたんだ」
「…………」
「だから納得がいかないんだ。どうして先へ進めない? 俺の知る話の先をこの身で感じることはできないのか?」
【最弱魔剣使いの成り上がり】についての熱意をライネリアへぶつける。
すると、彼女の表情が徐々に変化していった。
「そうですか……」
一度大きく息を吐いてから、ライネリアは静かに語り始める。
「あなたが――バレット・アルバースが学園を卒業した後にどうなったかは知っているよね?」
「……ラウルに負けて、貧民街へと消えていった」
改めて口にするとなかなかこたえるな。
今はそのラウルと友好関係を築けているから問題ないけど。
「その通り。それから、ラウル・ローレンツは勇者として覚醒していき、たくさんのヒロインと結ばれる」
ティーテにマデリーンに、うちのレイナ姉さん。そういえば、原作ではテシェイラ先生もそのメンバーのひとりだったな。
それから、ラウルは仲間たちと世界を旅してさまざまなトラブルを解決していく。
――それが、俺の知る物語のすべてだ。
果たして、あの場面からラウルはどうなったのか。
その先にある物語について……話を聞こうとしたのだが、
「……そこで終わったのよ、このお話は」
物悲しげな表情を浮かべて、ライネリアはそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます