第309話 この世界の真実
これまでずっと謎に包まれていた、《この世界を知る者》の正体。
「ライネリア……君は、この【最弱聖剣士の成り上がり】における――」
「勇者ラウルにとって最後に戦う敵――君たちの世界の言葉を借りるなら、ラスボスってヤツかな」
……どこか、予感めいたものはあった。
ラウルとの戦闘を目の当たりにした辺りから、なんとなくそうじゃないかって……でも、彼女は俺が読んでいた話までには登場していない。恐らく、その後で出てきた新キャラなのだろう。
だが、何よりも驚いたのは、
「まさかとは思っていたけど……君という存在がいるなら、【最弱聖剣士の成り上がり】は完結したのか?」
投稿開始から一週間で五万ブクマを記録し、それからすぐに書籍化とコミカライズが発表され、書籍発売前からアニメ化の噂がまことしやかに囁かれていた本作。考察スレも盛んで、SNSでは公式アカウントが作られるなど、レーベル側も大ヒット間違いなしと大きな期待を寄せていた。
正直、投稿ペースを遅らせて作品を長引かせるとばかりに思っていたが……いや、俺がこの世界に来てからあっちでどれほどの時間が経過したのか分からないので、一概に早く終わったとは言えないかもしれない。
「完結……か」
なぜかライネリアはしんみりした表情を浮かべている。
俺はその反応がしっくりこなくて、思わず聞き返した。
「君が自分をこの作品のラスボスだというなら、主人公のラウルと戦い、その決着がついたはずだ」
とはいえ、結果は目に見えている。
待っているのは、お約束と言っていい結末――どう考えても、覚醒したラウルの力によってライネリアは倒されたはず。
――ライネリアは何も答えない。
となると、彼女の狙いはラウルへの復讐か?
本編では主人公とヒロインたちにやられたが、この世界ではそのラウルがまったく違う動きを見せている。ティーテやマデリーンといったハーレム要員とは結ばれず、幼馴染のユーリカとくっついて平穏に暮らしているのだ。
ライネリアにとっては、もっとも復讐に適した世界と言える。
……だが、そうなると不可解な点がある。
なぜ、彼女はこの世界の真相――つまり、【最弱聖剣士の成り上がり】という作品の世界であると気づけたのだろうか。ライネリアの言動のすべては、ここが起点になっているといっていいはず。
「ライネリア……なぜ君はこの世界の真実を知ることができたんだ?」
「この世界の真実?」
「ティーテやラウルは、この世界が【最弱聖剣士の成り上がり】という作品の世界であることを知らない。自分たちが生きる本物の世界だと信じている」
「……そうね。彼女たちにとっては紛れもなくこの世界は本物よ。――だけど、その本物は近いうちに消滅してなくなるのよ」
「何っ!?」
世界が消滅する!?
ヤツの狙いはそっちだったのか!?
「ど、どういう意味なんだ!?」
「言ったままよ」
そう口にした彼女の表情は――さっきまでとはまるで違い、真剣そのものだった。
「私は誰にも倒されずにこの終わりのない世界で生き続けているの……」
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