第306話 変わり果てた世界

 飛ばされた過去の世界で再び聖剣を手に入れた俺は、その魔力でようやく元の世界へと帰ってきた――と、思ったら、目の前に広がるのは絶望としか言えない光景だった。


「何がどうなっているんだ……」


 廃墟と化した王都をゆっくりと歩きながら、俺は頭の中を整理しようとする――が、こんな訳の分からない状況で冷静になれる方がどうかしているよ。


「落ち着け……落ち着くんだ……」


 そう言い聞かせながら、一歩一歩進んでいく。

 とにかく、まずは誰かに会いたい。

 そして、なぜブランシャル王都がこのような変わり果てた姿になってしまったのか、その説明を聞きたかった。その事情が不透明のままでは、俺としても解決策を導きだすことができないからな。


 というわけで、俺はまず人を捜すことにした。

 ――だが、望み薄かなと思う。


 何せ、この荒れようだからな……恐らく、かなりの規模の戦闘が行われたものと思われる。

 そのような状況で、民がいつまでも残っているわけがない。

 今もどこかに避難している――と、いいのだが。

 城には人の気配がしなかったし、王都もこの有り様では……誰も残ってはいないかもしれないな。


「とにかく、片っ端から見ていくしかないか」


 まずは動くこと。

 前から――この世界に来た時から、俺はずっとそうしてきた。

 たとえ世界の様相が様変わりしてしまっても、それは変わらない。


 王都を見て回りつつ、学園を目指そう。

 そう決めて一歩踏み出した時だった。


「っ!?」


 これまでに感じたことのない強烈な魔力を感じ、思わず振り返る。


「な、なんだ、今の……」


 寒気が止まらない。

 まるで背中に氷を張りつけられたかのようだ。

 この感覚……もっとも近しいものを挙げるとするなら、初めて暴走したラウルと対峙した時に近い。


「まさか……ラウルが暴走しているのか?」


 嫌な汗が、頬をつたう。

 王都のこの荒れよう……ひょっとして、ラウルが暴走したからなのか?

 

 ――いや、その可能性は薄いだろう。

 確かに暴走したラウルを止めるのは至難の業だが、王都がここまでになるほどではないと思う。俺でもなんとかやれたわけだし、それこそ、王国魔法兵団が総力を結集すれば事態の鎮圧はそこまで難しくはないはずだ。


 だったら、一体誰が……とにかく、この強大な魔力の持ち主がこの惨状を引き起こした張本人であることに間違いはない。


 俺はその正体を求めて王都を駆ける。


「こっちの方からだ!」


 どうやら、場所は王都の中央広場付近にある教会近くの公園からのようだ。

 走り続けている間も、人の姿はどこにも見えなかった。

 周りに怪我人の姿さえ見えない――すでに退避が終わっていると判断してよさそうだな。


 少しホッとしつつ、目的地へと急ぐ。


「はあ、はあ、はあ……」


 肩で息をしながら、俺は公園の中へと入っていく。

 すると、「ズン!」とまるで巨大なモンスターが地面を踏みしめたような衝撃が襲った。


「うわっと!?」


 バランスを崩して転倒しそうになるが、何とか持ちこたえる。

 とりあえず、目的地はここで正解のようだ。

 俺は辺りを見回して、


「なっ!?」


 飛び込んできた信じられない光景に息を呑んだ。


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