第305話 見知らぬ世界
聖剣がこれまでに見せたことのない力。
その感覚に恐怖はなかった。
むしろ、どこか頼りになるとさえ思えていた。
それはきっと、聖剣が俺を本来の世界へ導いてくれようとしているから――そんな風にさえ思えてきた。
この溢れ出る魔力をどう使えばいいのか。
聖剣は言葉にして俺に伝えるようなことはしないが、それでも、魔力を通じてこれからどういう行動を取るべきなのか教えてくれた。
「……分かったよ。斬ればいいんだな?」
俺は静かに呟くと、聖剣を構える。
視線の先には何もない。
――けど、聖剣はそこを斬れと俺に伝えている。
「やってみるか」
現状のままでは何も解決しない。
だったら、ここは聖剣に身を任せてみよう。
そう判断した俺は、ありったけの魔力を開放して聖剣を振り下ろした――すると、
「っ!?」
確かな手応えを感じた。
何もない空間のはずなのに、そこには間違いなく「何か」が存在しており、聖剣を振り下ろしきれないでいた。
「なるほど……これを斬れってことか!」
はたから見ると、聖剣を途中で止めているようにしか映らない――が、聖剣の伝える姿なき存在のせいで今の状況となっていた。
これを斬った瞬間、何かが大きく変わる。
そんな予感めいた気持ちが湧き上がってきていた。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺はさらに魔力を上乗せして、押しきろうとする。
それにしても……頑丈だ。
まるで巨岩を相手にしているような感覚だった。
――と、その時、
「おい! どうした! 何があったんだ!」
自室のドアをドンドンと叩きながら、寮長が叫ぶ。そういえば、もうとっくに消灯時間を過ぎている。そんな時間に大声上げて、尚且つこれほど大量の魔力を放出していれば、嫌でも異変に気づくってものか。
……でも、ここまで来て退けない。
あと少し……あと少しなんだ。
「いっけええええええええええっ!」
最後の力を振り絞って、剣を握る手に力を込める――と、次の瞬間、それまでの手応えが突然消え去った。
「わっ!?」
反動で前方に転倒した俺は、慌てて起き上がる。だが、視界に飛び込んできた光景は、さっきまで見ていたものとまるで違っていた。
「いてて……ここはどこなんだ?」
辺りを見回してみるが、記憶にない光景だった。
どうやら城の中らしいが……ブランシャル王国の城じゃなさそうだな。
そう判断した理由は、城内の様子があまりにもボロボロだったから。建物自体はそこまで古くなさそうだが、激しい戦闘の痕跡がうかがえる。
「何がどうなっているんだ……おっ?」
出口を探してさまよっていると、窓を発見する。
あそこから外の様子を見れば、もう少し状況が理解できるかもしれない。
急いで駆け寄り、窓の先の景色を眺めると、
「なっ!?」
思わず叫んでしまった。
そこには、見慣れた町並みが広がっていた。
しかし、その町でも激しい戦闘が繰り広げられたようで、
――そう。
ここはやはり、ブランシャル王国の王都であった。
「じゃ、じゃあ、ここはブランシャル城? で、でも……」
俺はパニック状態だった。
最初はボロボロだったので分からなかった、外の景色を見てここがブランシャル王国であると確信する。
「過去に飛ばされたと思ったら、今度は廃墟と化した王都って……」
その事実をようやく理解した時――真っ先に浮かんできたのはティーテの安否だった。
彼女は果たして無事だろうか。
そう考えると居ても立ってもいられなくて、俺は外へと飛び出した。
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