第304話 秘められた力
俺はまた戻ってきてしまった――この世界のスタート地点に。
朝食後の流れも、以前とまったく同じ。
ティーテとともに神授の儀を受け、俺は聖剣を授かる。
マリナたちにド派手な演出で祝われた後、寮の自室に戻ってこれからのことを考えていた。
「どうしたものか……」
ベッドへ仰向けとなりながら、ボソッと呟く。
それから、視線を真横に移して聖剣を見つめる。
ついに手に入れた聖剣。
こいつの力があれば、元の世界――学園祭のあった日に戻れるのではないかと考えていたのだが……事態はそう簡単な話ではなかった。
聖剣の持つ力をどう利用すれば元の世界に戻れるのか……それが分からなかったのだ。
「そもそも時空が歪んでいるようなものだろう? それこそ、人間の持つ魔力じゃどうにもならない気がする」
と、なると、俺を過去の世界へ戻した《この世界を知る者》は人外である可能性が高い。
……まあ、今さら感があるよな。
ヤツは間違いなく、人を超えた存在だ。
それを改めて思い知らされたよ。
とにかく、何か手はないかと聖剣を手にしてみる。
――が、当然何も答えてはくれない。
「……この世界にもティーテやみんなはいるけど……そうじゃないんだよな」
恐らく、俺が過去へ飛ばされる前にいた世界では、俺が消えたことになっているのだろう。
近くにいたマルゼがかかわりを持っていることは疑われるだろうから……下手をすると、そこから話がこじれて戦争に発展してしまったり?
「……まずいな」
ゾゾッと背中が寒くなる。
あまり悠長に構えてはいられないと感じた俺は、聖剣へ魔力を込めてみた。最初にこの剣を手にした時も試してみたが、あの頃はその強大な力の前にビビッていた――しかし、日々の鍛錬に加え、何度も聖剣とともに窮地を脱してきた経験が、俺に聖剣を扱い方を覚えさせていったのだ。
……戻らなくちゃな。
不意にそう思った瞬間――まるで俺の願いに応じるかのごとく、聖剣がまとう魔力の輝きが強みを増した。
「っ!? せ、聖剣が!?」
こんなこと、これまでに一度もなかった感覚だ。
一体何がどうなっているのか。
その答えを見出すよりも先に、体が動いていた。
「……やればいいんだな?」
具体的に「こうしろ」と聖剣がアドバイスをくれたわけじゃない。
でも……なんとなくそんな感じがしたんだ。
ひょっとして――俺だけじゃなく、聖剣も以前の世界から連れてこられたのか?
「ともかく、やってみればすべてが分かる」
俺は目を閉じて、魔力を集中させる。
本来の俺がいた世界。
ティーテたちと楽しく過ごしていた世界。
何もかもが変わろうとしていた世界。
「力を貸してくれよ――聖剣!」
ため込んだ魔力を一気に開放する感覚。
強大な渦となって部屋中に立ち込めたそれは、やがて聖剣にある変化をもたらす。
「こ、これは……!」
聖剣が真っ赤に発光していた。
こんな現象はこれまでに見たことがない。
一体、何が起こるっていうんだ?
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