第294話 怪しい動き

 プリームが慌てた様子でこちらに合図を送っている。

 彼女たちメイド三人娘にはマルゼ副会長を見張らせていた。

 ……「見張らせていた」っていうのはちょっと表現がアレだな。ただ、ちょっと動きが気になったから念のため見ていてもらうようお願いしておいたのだ。マリナはノリノリで学園の制服まで持ち出していたけど。


 そのマルゼ副会長だが、体調不良を理由に開会式には出席しなかった。

 なので、今は自室で待機しているはずだが。


 俺はランドルフ学園の学生たちを案内する役割を担っているため、こちらからプリームに接近することはできない。それを向こうも承知しているため、人込みを縫うようにして俺のもとへとやってくる。


「バレット様」

「どうかしたのか、プリーム」


 俺たちは目線を合わせることなく、背中越しに会話をする。


「マルゼ副会長に動きがありました」

「動き? 具体的には?」

「部屋を出て、学園内へと入りました――が、会場には向かっていないようです」

「えっ?」


 それは妙だな。

というか、下手に歩き回っても、学園の職員に止められるはず。


「……そのことを誰かに報告は?」

「いえ、まだ」

「それなら、テシェイラ先生かウォルター先生に報告を入れてくれ。あのふたりなら面識があっただろう? 俺が絡んでいることを説明すれば、きっと動いてくれるはずだ」

「は、はい」

「あと、ふたりに合流したら伝えておいてくれ――絶対に無茶はしない、と」

「了解です」


 俺はプリームにそう指示を出す。

 それを受け取った彼女は再び人の波をスルスルとかき分けながら進んでいく。さすがは猫の獣人族。優れた身体能力であっという間に見えなくなった。


 マルゼ副会長の動きは気にかかるところではあるが……今は生徒会の仕事に集中だ。

 学園の安全を守るため、王国騎士団も大勢詰めかけているし、何よりすべて俺の考えすぎって線もある。

 ただ、テシェイラ先生やウォルター先生のように、その場の状況に応じて柔軟に対応できる人にはこの情報を頭に入れておいてもらいたい。お役所仕事にならず、きっと最善の策を取ってくれるはずだ。


 ……欲を言えば、アビゲイル学園長にいてもらうのが一番いいのだが、それは無いものねだりになってしまうな。学園長代理に話を持っていってもアビゲイル学園長と同じような対応をしてくれるとも限らない。何せ、これまでほとんど接点がなかった人だ。俺との間に信頼関係がない。


 ここはとりあえず、よく知ったふたり――テシェイラ先生とウォルター先生の判断を仰ぐとしよう。



 その後、これといったトラブルはなく、学園祭は順調に進んで行った。


「では、そろそろ昼食にしましょうか」


 ジャーヴィスがランドルフ学園の学生たちにそう告げると、どうやらすでに腹ペコだったらしく、歓声があがった。


 ランチは学園自慢の食堂にて予定されている。

 俺たちも一緒にそこで食べるのだが……それが終わるといよいよ午後からは武闘大会だ。


 ランドルフの学生たちとも対戦することになっているんだよなぁ。

 ……ちょっと、怪しくなってきたか?

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