第295話 迫る黒幕

 午後になり、いよいよ武闘大会が始まる。

 今回はいわゆるエキシビションマッチみたいなものが組まれており、それがアストル&ランドルフ両学園の生徒会による戦いだ。


「うおらああああああ!」

「ふんぬうううううう!」


 現在、その第一戦としてうちからアンドレイが参加し、向こうの学生と戦闘中。

 どちらもパワーでゴリ押ししていくタイプなので、非常に見応えのある試合となっていた。


 ……振り返れば、一年前の武闘大会はいろいろと大変だった。

 

 マデリーンと双子の弟であるジョエルの確執。

 そして、自身の秘密を暴露する覚悟を決めたジャーヴィスとの戦い。


 最終的にハルマン家とレクルスト家の不正が発覚して、マデリーンとジャーヴィスは家の名を失うことになったわけだが……当人たちはあまり気にしてはいない様子だった。まあ、学園長の配慮により、ふたりとも退学は免れたっていうのもあるのだろう。


 あと気になるのはマルゼ副会長の動向だな。

 プリームに伝言を託してから、まだ続報は届いていない。


 今年の学園祭はランドルフ学園の学生も参加しているため、対応も例年以上に慎重なものとなっているのだろう。想定される事態の中でもっとも最悪なのはそのランドルフ学園の学生が何かしらの事件に巻き込まれるということだ。


 ただ、この辺は心配ないかと思う。

 怪しい動きを見せているのがランドルフ学園側の学生だから、きっと自分たちの仲間を巻き込もうとは思わないだろう。


「……待てよ」


 ここでふと、俺はランドルフ学園へ留学した時のことを思い出す。

 あの時、国際問題にまでは発展しなかったが、うちのメイドのマリナが事件に巻き込まれるなど、諸々トラブルがあったのも事実。


 それらに関与していたのは――


「《この世界を知る者》……」


 正体不明の存在。

 だが、俺以外でこの世界が【最弱聖剣士の成り上がり】というラノベとまったく同じであることを知っている者。


 やはり今回もヤツが絡んでいるのか?


「――そろそろ決着をつけなくちゃな」


 この世界に転生し、嫌われ勇者のバレットとしての生活をはじめてもう一年以上が経つ。

 当初は原作通りの嫌われっぷりに辟易したが、なんとか少しずつ立場は回復してきて、今では生徒会長を任されるまでになった。


 ヤツの――《この世界を知る者》の狙いは未だに不透明。

 だけど、俺やティーテ、さらには仲間たちに危害を加えようと企んでいるのなら、それを全力で阻止しなければならない。


「おらあ!」

「ぐうっ!?」

「そこまで!」


 考え事をしながら応援していたら、一回戦の決着がついた。

 勝者アンドレイ。

 紙一重の差で、何とか掴んだ辛勝だった。

 それだけ、お互いの実力が拮抗していたってことだ。


「やるなぁ。久しぶりに熱くなれたよ」

「こちらこそ」


 最後は対戦者同士で握手を交わし、会場からは拍手が飛び交った。

 ……うん。

 絶対に、何があってもこの光景を「嘘」にしてはいけない。

 そう誓った後で何気なく振り返ると、視線の先に――


「っ!?」


 こちらを見つめながら笑みを浮かべる《この世界を知る者》が立っていた。

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