第293話 開幕

 学園内はすでに大きな盛り上がりを見せていた。

 午前中は各クラスで企画した出し物が中心となり、昼食休憩を挟んでから武闘大会が行われる予定だ。


 ――その前に、学生たちは一度講堂へと集められる。

 学園祭の開会宣言をするためだ。

 もちろん、アンネッテ会長をはじめとするランドルフ学園生徒会の面々もズラリと顔を揃えていて――あれ?


「妙だな……マルゼ副会長がいない?」


 昨日、少し挙動がおかしかったマルゼ副会長の姿が見られなかった。

 念のため確認したところ、体調が優れないという理由で開会式を欠席したらしい。


 なんというか……あまりにも怪しい。

 とはいえ、相手はブランシャル王国が良好な関係を築きたいと願っているサレンシア王国のランドルフ学園生徒会メンバーだ。向こうとしても、うちとの関係を悪化させるようなマネを望んでいるとは思えない。


 近くにある別大陸の話だが、最近になって軍事同盟を結んだ国もあると聞くし、裏社会で暗躍する者の名も、よく耳に入る。こんな風に世界が少し慌ただしくなってきたところで、両国が事を荒立てるなんてことはしないだろう。


 だが、決して楽観視はできない。

 マルゼ副会長については、制服を着用して潜入したマリナたちが見張っているはず。何か怪しい動きを見せたらすぐに連絡してくれるはずだ。


「続きまして、バレット生徒会長による開会宣言を行います」


 司会者を務めるクライネからの紹介で、俺は壇上へとあがる。

 全学生の視線が集まる中、俺は胸を張って学園祭のスタートを宣言。

 俺たち三年生にとって、最後の学園祭が幕を開けた。



 ――とはいえ、生徒会という立場上、去年のように好き勝手あちこちを見て回るということもできない。


 俺たちは生徒会と学園騎士団の二手に分かれ、会場をチェックして回る。

 その間、ランドルフ学園生徒会の案内役もこなしていた。


「物凄い活気ですね!」

「みんなこの日を待ち望んでいましたから」

「えぇ……それがヒシヒシと伝わってきます」


 相変わらずいいコンビのアンネッテ会長&ティーテ。

 本当に仲良しだなぁと思いながらふたりを眺めていると、不意にアンネッテ会長と目が合った。すると、彼女はクスクスと小さく笑い、それにティーテが気づく。


「どうかされましたか?」

「いえ、あなたを独り占めしてしまっているせいで、婚約者に睨まれてしまいました」

「えっ?」


 しまった。

 こちらの視線に勘づいていただけじゃなく、その裏に潜む感情まで読み取られるとは。

 冷やかされて顔を真っ赤にしているティーテは実に可愛らしく、死ぬ直前まで眺めていたくなる――が、そこに気がついたアンネッテ会長もさすがだ。


「ごめんなさいね、バレット会長」

「い、いや、そんな……」


 いきなり話を振られてちょっと動揺したが、なんとか誤魔化す。

 と、その時、遠くからこちらに手を振る人物が。


「あれ? プリーム?」


 メイド三人娘のひとりであるプリームだった。

 もしかして……マルゼ副会長に何か動きがあったのか?


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