第292話 最後の学園祭当日
夜が明け、いよいよ学園祭当日を迎えた。
「ついに、か……」
いつも通り、マリナに起こされて支度を始めた俺は、窓から外の景色を眺めていた。
そこから見える光景は、いつもと違って学園祭仕様となっている。
どこか、別世界のようにも映るが……本質的には変わっていないのだろうと思う。
「どうかされましたか、バレット様」
「……いや、なんでもないよ、マリナ」
生徒会長として迎える今年の学園祭は、去年までとはまるで違う。今までになかった緊張感っていうのがあった。
しかも、ただの学園祭というわけではない。
学園長が不在で、尚且つ、不穏な動きがチラホラと見え隠れしている状態……さらに、隣国のサレンシア王国からランドルフ学園の生徒会を招いて行われる史上初の学園祭ということもあって、気持ちがなかなか落ち着かない。
「バレット様……」
「大丈夫ですか?」
ついさっき「なんでもない」って誤魔化したばかりなのに、もう顔に出てしまったらしく、プリームやレベッカも心配そうにこちらを見てくる。
……これはもう誤魔化しきれないか。
「ごめん……本音を言うと、ちょっと不安なんだ。俺は姉さんのようにうまくやれるのかどうかって……」
今年のようなイレギュラーさがないとはいえ、昨年の姉さんの手際は見事なものであった。
俺としては、あれくらいスマートに決めたいところだが……メンタル面ですでにだいぶ遅れをとっているように思える。
「ご安心ください、バレット様」
不安に押しつぶされそうになっていると、マリナがそう言って一着の服を手にした。
「御覧ください。すでに学園の制服は入手してあります。この後、私たちも会場へ潜入し、怪しいところがないかくまなくチェックをしていきますので」
「あ、う、うん」
マリナとしては本気で俺の力になってくれようとしてくれているのだろうが……まあ、うん。普通にありがたいよ。プリームは着る気満々なのに対し、レベッカは未だに抵抗があるような感じだけど。
「と、とにかく、無理はしないように」
「「「はい!」」」
相変わらず元気なメイド三人娘に見送られて、俺は部屋をあとにした。
寮から出ると、すでにティーテと彼女の専属メイドであるユーリカが待っていた。
いつもは俺とティーテのふたりで登校しており、ユーリカは「是非ともおふたりで」といつも少し遅れて投稿するのだが、今回は生徒会の仕事もあるので一緒に学園へと向かうことになっていた。
「おはようございます、バレット」
「おはよう、ティーテ。ユーリカもおはよう」
「おはようございます、バレット様」
一年以上が経っても変わらないやりとり。
……いや、相手がティーテなら、この先ずっと今みたいなやりとりは続いていくのだろう。
「昨日はよく眠れたかい?」
「それが……緊張しちゃって、ちょっと寝不足気味です」
「ははは、俺も同じだよ」
これから何が起こるのかまったく読めない学園祭が始まろうとしているのに、俺たちはどこかリラックスしていた。
まっ、下手に緊張してガチガチでもいい仕事はできないしな。
これくらいが正しいのかもしれない。
そうこうしているうちに、俺たちは校舎へとたどり着いたのだった。
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