第288話 忙しさの合間に……
俺たちの心配をよそに、日々は穏やかに流れていった。
レクルスト家とハルマン家の元当主による誘拐事件が大きなきっかけとなり、学園内の警備がより強固なものになったことで、暗躍していた者たちも動きづらくなったのだろうというのが大方の予想だった。
「学園祭まで残すところあと一週間……このまま順調にいってもらいたいな」
生徒会室の窓から学園の様子を眺めつつ、俺は願望を口にする。自分では心の中で呟いた決意表明のつもりだったけど、どうやら声に漏れていたらしい。
「きっとうまくいきますよ、バレット」
「ティーテの言う通りだ」
生徒会室に残って仕事をしていたティーテとジャーヴィスから励まされる。
「ありがとう。みんなのおかげだよ」
今まで無事にやってこられたのは、俺だけの力じゃない。
ティーテにジャーヴィス、それから、現在は学園内を見回っていてこの場にはいないけど、ラウルにユーリカにアンドレイ、クライネやマデリーンの協力があってこその平和だと思っている。
それぞれが力を出し合い、ベストを尽くす。
これが、生徒会ってものだ。
……俺は、姉さんの動きしか追っていなかったけど、こうして自分がその後釜に収まり、実際に運営していくと、周りの大切さがよく分かる。
振り返ってみれば、姉さんの周りにも協力してくれる仲間が大勢いた。
本人の能力が凄かったのもそうだけど、やっぱり頼りになる仲間の存在は大事だな。
ただ、原作である【最弱聖剣士の成り上がり】を愛読していた俺からすると、今集まっているこのメンツは意外な顔ぶれだなと感じる。
そもそも、ラウルとは(一方的な)敵対関係だし、ティーテには愛想をつかされている。ジャーヴィスやユーリカは一応こちら側の人間であったが、脅していたり、悲しいすれ違いだったりで信頼関係なんてありはしない。アンドレイやクライネ辺りは恐らく学園時代に接点なんかろくにないだろう。
……いや、ホント、よく今の関係が築けたなって改めて思うよ。
結局、その日もこれといったトラブルは起きず、平和に一日が終わった。
「さて、課題も終わったことだし……会場の全体図をもう一度確認しておくか」
「あっ、私も」
「熱心ですね、おふたりとも」
資料を取りだすと、マリナがお茶を注いだカップを置きながら言う。
日課となっているティーテとの勉強会を終えると、いつもならお茶を飲みながら寮の消灯時間まで楽しいトークタイム――だが、学園祭が終わるまでは関連業務に忙殺されそうだ。
「にゃ~……大変なんですね、学園祭の準備」
「昨年のレイナ様もかなり忙しそうでしたからね」
遠くから見つめるプリームやレベッカも似たようなことを言っているが……そこまでだろうか。去年のレイナ姉さんの方が大変そうだったけど。
「ティーテ様も、たまにはバレット様にわがままを言ってよろしいかと」
「えっ?」
「そうですにゃ!」
「『仕事と私、どっちが大事なの!?』――と、迫ってみるのも手かと思います。……凄い。最近読んだ小説のセリフがリアルに……」
いや、なんて内容の小説を読んでいるんだ、レベッカは!?
こんな調子でメイド三人衆から迫られるティーテだったが、
「私はバレットと一緒にいられるだけで十分嬉しいですから」
と、天使のそのものの回答を口にした。
……すまない、ティーテ。
学園祭が終わって時間ができたら、ド派手にデートでもしような。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます