第286話 不安要素

「――と、いうわけだ」


 翌日の授業後。

 俺は生徒会室にメンバーを集め、学園長の専属秘書であるシャニアさんから受け取った情報を話した。


「学園長を陥れようとしている輩がいるなんて……」

「にわかには信じられないけど、シャニアさんが言うなら間違いなさそうね」

「気に入らねぇ! 一体学園長に何の不満があるっていうんだ!」

「この場合、学園長が気に入らないというより、その座を狙っているけど実力では遠く及ばないって陰湿な野心家が犯人ってパターンでしょ?」


 ジャーヴィス、マデリーン、アンドレイ、クライネは卑劣な犯人に対して怒りをあらわにしていた。

 恐らく、今回起きたジャーヴィス&マデリーン誘拐事件をたきつけたのもそいつだろう。

 騎士団も動きだしているようだが、俺たちでも調査できることはしておきたい。

 

 ――が、その前にひとつ気になることがある。


「…………」

「ラウル? 聞いているか?」

「っ!? あっ! は、はい! 嫌いな食べ物はピーマンです!」

「いや、そんなこと聞いてないけど……?」


 ダメだ、こりゃ。

 みんなからの励ましで立ち直ったかと思われたラウルだが、未だに暴走の件について責任を感じているようだった。


 人一倍真面目で努力家。それでありながら、育ちや魔剣のことで自分に自信を持てないでいる。それがラウルという男だ。


 大体、魔剣使いだからってそこまで自分を卑下することはない。

 世の中には同じような魔剣使いでも大成している人だっている。

 いつだったか、マリナから聞いた例の商人だって、魔剣使いだが立派に使いこなして今やその名を世界に轟かせている。ラウルだって、これからの鍛錬次第でそうなれるかもしれないんだ。


 ……ただ、自信に溢れたラウルというのもちょっと考えものだ。

 いや、友人として、彼に自信を持ってもらいたいというのは心からの願いだし、そうなってくれるよう協力は惜しまないつもりだ。


 でも、原作である【最弱聖剣士の成り上がり】では、魔剣の力を完璧に制御し、ざまぁ要因である俺――バレット・アルバースを貧民街に追いやってからのラウルの急変ぶりに批判の声が寄せられているのも事実であった。


『なんか、最近のラウルってイキりすぎじゃね?』

『初期の謙虚さがなくなってるよなぁ』

『これだと、ただのチンピラみたいじゃん』


 俺が覚えている最新話の感想欄には、そうした意見もチラホラ見受けられた。

 これに対し、ファンは、


『的外れな批判乙です』

『自分の作品が読まれないことへの嫉妬か?』

『見苦しすぎ(笑)』


 という擁護の返信を送っていた。

 ……まあ、それはあくまでも原作でのラウルの話だ。こちらではユーリカという恋人もできて、生徒会に入り、少なくとも原作よりは仲間もできているはず。


 だから、いくら彼が自信を持ったとしても、原作のように誰かから反感を買うようなことにはならないと思う――とはいっても、これも俺の希望的観測に過ぎないのだが。


 ともかく、生徒会や学園騎士団でも、学園内で不審な動きがないか様子を見ていくことになった。


 せめて、学園祭が終わるまでは平穏無事に過ごしたいものだ。

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