第284話 美人秘書シャニア
俺に用があるといってわざわざ教室にまで押しかけてきた人物とは――
「どうも、バレットさん。それにティーテさんも」
本当に知らない人だった。
年齢は二十代前半か。
深海をイメージさせる濃紺の髪に整った顔立ち。可愛いというよりは美人系のお姉さんが立っていた。
「あ、あの、俺に何か用ですか?」
クライネの言う通り、美人であるには違いないけど……本当に面識がない。「あっ、どこかで見たことあるかだなぁ」っていう印象さえ欠片もないのだ。
どう考えても初対面。
なのに、どうして俺を知っているんだ?
いや、俺だけじゃなく、ティーテの名前も口にしていた。そこも気になる。
「おっと、申し遅れました。わたくし、こういう者です」
俺とティーテが警戒心を持っていることに気がついた女性は、そう言って一枚の小さな紙を俺たちに差しだす。まさか……名刺か?
恐る恐るそれを受け取り、名前を確認してみると、
「えぇっと……シャニアさん?」
「はい」
なるほど。
名前はシャニアさんか。
で、お仕事は――
「!? が、学園長の専属秘書!?」
「就任された当初からずっと担当しております」
し、知らなかった。
いや、学園長は多忙だから、そりゃ秘書のひとりやふたりはいてもおかしくはないんだけどさ……これまで、俺は何度か学園長室へ足を運んでいる。だが、今の今まで一度も秘書という存在と出くわしたことがなかった。
とはいえ、さすがに関係者でなければこうして堂々と学園の中を歩き回り、俺たちを呼びつけるなんてこともしないだろう。
まずは話を聞いてみることにするか。
「そ、それで、話を戻しますけど――」
「ああ、用件ですね。それなんですが……少し場所を変えましょう。ティーテさんもご一緒に来てください」
「は、はい」
俺だけじゃなく、ティーテにも関係がある話ってわけか。
となると……やっぱり、学園長絡みかな。
俺とティーテはシャニアさんとともに屋上へとやってきた。
ここには庭園もあるし、今日は緑化委員もいない――隠れて話をするにはもってこいの環境というわけだ。
「さて、あまり時間もありませんので単刀直入に話します」
庭園に到着するなり、シャニアさんは早速俺たちを呼んだ理由を話した。
「まあ、予測しているとは思いますが……アビゲイル学園長のことです」
やっぱり、か。
「もしかして……あまり容体が?」
「いえ、順調に回復へと向かっています。――少々時間はかかりそうですが」
……なんとも、引っかかる言い方だな。
しかし、裏を返せば――そこに俺たちを呼んだヒントが隠されていると見た。
「時間がかかる、というと?」
「学園長の復帰を妨害しようとする者たちがいるのです」
「「っ!?」」
まさかの言葉に、俺とティーテは驚きに表情が強張る。
それってつまり……裏切り者がいるってことか?
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