第283話 戻ってきた平穏(?)な日々

 再び暴走したラウルであったが、仲間たちからの励ましを受けてなんとか立ち直りを見せつつあった。

 一方、今回の戦いで不調に陥ったアビゲイル学園長は、翌日から休職しているらしい。


「うーん……心配だな」


 学園長の安否が気になる。

 駆けつけた騎士団の話では、疲労から来るものですぐによくなるってことだったが……何事もないといいんだけど。

 ――と、その時、何やらじっとりとした三つの視線が向けられていることに気づく。


「バレット様がティーテ様以外の女性のことを気にかけていますね……」

「にゃにゃっ!? もしかして浮気!?」

「まさか……バレット様に限ってそんな!?」

「いや、何してんの?」


 メイド三人衆が何やら引っ付きながらコソコソと何かを言っている。


「学園長が心配なのは事実だけど、それを理由にティーテとの関係が変化することなんて絶対にないよ。俺にはティーテしかいないのだから!」

「「「おぉ~」」」


 メイド三人衆から拍手が起こった。

 俺としても、会心の発言だったと胸を張れる――が、


「それを是非ご本人の前で言ってあげてください」

「…………」

「? バレット様?」

「そ、そろそろ行こうか」

「バレット様!?」


 うっ……レベッカの抗議の声が胸に刺さる。

 ティ、ティーテとはもう何度もその手のやりとりはしているから、きっと伝わっている――はず。

 ……いや、それでも、やっぱり改めて口に出した方がいいだろうな。

 今日、タイミングを見計らって想いを伝えてみよう。



 学園長不在ながらも、学園自体はいつもと変わらないペースで一日が進んでいった。

 まあ、こういう事態も普段から想定しているのだろう。

 先生たちも変に焦ったり動揺したら俺たちに悪影響が出ると思っているのか、変わりない態度で授業を進めていく。


「昨日の出来事が嘘みたいですね」

「そうだなぁ」


 授業終了後。

 俺とティーテは目立った変化もなく、平穏に過ごせていることを驚きつつそんな話をする。

 ――だが、学園長が療養に入ったというのは事実。

 復帰時期は未定だが、その影響力を考えるとあまり長く学園長の席を空けておくわけにはいかないだろう。まさかとは思うが……後任の学園長が来るなんてことはないと願いたい。


「まあ、何か進展があったら俺たちにも声がかかると思うよ。それまでは待機だな」

「ですね」

「それじゃあ、今日も一緒に課題を――」

「バレット、ちょっといい?」


 ティーテと楽しい勉強タイムを送ろうとしていた俺に声をかけたのは、同じクラスで生徒会にも所属するクライネだった。


「クライネ? どうかしたのか?」

「あなたにお客さんよ」

「お客さん?」

「そう。――それも、凄い美人」

「「えっ?」」

 

 思わず俺とティーテは顔を見合わせる。

 その時のティーテの表情は――めちゃくちゃ不安そうだった。


「い、いやいやいや! 別にその人とは何もないよ!」

「そ、そうなんですか?」

「安心していいわよ、ティーテ。バレットの言っていることは本当だから」


 自分から煽っといてよく言うよ、クライネ。

 ……とにかく、俺に用事があるというならあってみるか――その美人とやらに。

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