第279話 対ゴーレム戦

 暴走したラウルの一撃は――ゴーレムに効かなかった。


「ぐぅっ!?」


 圧倒的なパワーで弾き飛ばされるラウル。

 なんてヤツだ……こりゃあ、こっちも本気でやらなくちゃダメみたいだな。

 出し惜しみはなし!

 最初から全力でゴーレムを倒しにかかる。


「くらえっ!」


 ラウルの仇と言わんばかりに、魔力を込めた聖剣を振る。その属性は水。地属性魔法によって生みだされ、全身が砂でできているゴーレムにはもっとも相性の良い属性だ。


「っ!」


 その巨体ゆえ、回避行動が遅いゴーレムは俺の一撃を食らって膝をつく。致命傷とはならなかったが、かなりのダメージを与えることには成功したようだ。


「おっしゃあ! 援護するぜ、バレット!」

「ああ! 頼むぞ、アンドレイ!」

 

 ゴーレムが怯んだところへ、アンドレイが渾身の一撃を叩き込む。魔力の込められた水を浴びたことで、頑丈なボディに緩みが生じ、ゴーレムの巨体が揺れる。アンドレイも手応えをを掴んだようで、そこから強烈な拳のラッシュを浴びせた。


「な、なんだと!?」


 さすがにこれは想定外の事態だったらしく、マーデンはひどく狼狽している。

 このままではまずいと思ったのか、アンドレイを妨害するために魔法での攻撃を目論んだが――それはアビゲイル学園長の拘束魔法によって防がれる。


「ぐっ!?」


 魔力で生みだされた光のリングでマーデンの動きを封じる。

 これで邪魔者はいなくなった。

 

「やれ、アンドレイ! 思い切りぶちかませ!」

「お任せを!」


 学園長からのエールを受けて、アンドレイの攻撃はさらに激しさを増していく。このままいけば、あのゴーレムをバラバラに解体できるはずだ。


 となると、残る問題はラウルのみ!


「ラウル! しっかりしろ!」


 俺は倒れているラウルへと駆け寄り、声をかける。ゴーレムに吹き飛ばされた影響からなのか、すでに先ほどのような禍々しい魔力は感じない。

 今なら――元に戻っているはずだ。


「おい、ラウル!」

「う、うぅ……」


 いつも元気なラウルらしくない、弱々しい声。

 怪我もしていないし、外から見ている分には他に異常は見られない。――が、当人はとても苦しそうに唸っている。

 くそっ!

 こんな時、ティーテがいてくれたら――


「……ティーテ? そうだ! ティーテだ!」


 聖女であるティーテならば、この状態になったラウルも救えるはず。

 呼びに戻ろうとした時、


「うわあっ!?」


 アンドレイの叫び声が聞こえた。

 振り返った俺は――思いもよらぬ現実に震える。


「なっ!?」


 防戦一方だったはずのゴーレムが立ち上がり、アンドレイだけじゃなくアビゲイル学園長までもが劣勢に立たされていた。


「ふははははっ! 驚かせやがって! 結局はその程度か!」


 再び勢いを取り戻すマーデン。

 一体……何があったっていうんだ?

 よく見ると、マーデンにかけられていた拘束魔法が破られている。

 もしや――


「が、学園長……?」


 今までに見たことがないほど青ざめているアビゲイル学園長の顔……どうやら、こっちにもアクシデントが発生したらしい。

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