第278話 止められない暴走

 人質であるジャーヴィスとマデリーンが解放されたことで、形勢は一気に逆転した。


「おのれ!」


 事態が急速に悪い方向へ進んでいると察したマーデンは、起死回生を狙った切り札を発動させる。ヤツの全身から魔力が溢れだしたかと思ったら、突然その足元に魔法陣が出現。

 今までに見たことがないタイプの魔法陣だが――


「!? 召喚魔法陣!?」


 叫んだのはマデリーンだった。

 そういえば、彼女には「召喚魔法が得意」って設定があったな。自分が扱える魔法だから覚えていたのか。


 その召喚魔法から出てくるのがどんなヤツか……それも気になるところだが、俺としては再び暴走したラウルの方が気がかりだ。

 今のラウルは完全に我を忘れている。

 最初は自分に敵意を向けていたということもあって、防衛本能が働いたのか、積極的にマーデンへ仕掛けていった。しかし、対象がマーデンから俺たちへ移らない可能性はない。いつ襲われるのか、それはもう時間の問題と言ってよかった。


 これを突破するには、どうにかしてラウルを止める必要がある。


「ラウル……」


 聖剣に魔力を込めている間、いろんな感情が胸の中で渦巻く。

 ラウルは……ずっと努力していた。

 かつて、魔剣の暴走が招いた事故により、近くにいた学生たちに怪我を負わせてしまったこともあった。

 そのような事態を二度と起こさないよう、努力を重ね、なんとか魔剣の力を制御できるようになってきていた。

 それなのに……なぜここへきて、また魔剣は暴走したのだろうか。


「やめるんだ、ラウル! 正気に戻れ!」


 アンドレイも必死に呼びかけるが、ラウルはまったく反応を示さない。

 一方、アビゲイル学園長はマーデンの召喚魔法を妨害するために行動開始。地属性魔法を駆使して魔法陣の破壊を試みるが、予測していたマーデンの防御魔法によって弾かれた。


「くっ!?」

「そう簡単にはやらせないさ」


 切り札の発動が目前に迫り、マーデンの表情には余裕が戻っていた。

 そして、ついに――魔法陣から一体のモンスターが現れる。


「やれ! ゴーレム! ヤツらを皆殺しにしろ!」


 土の魔人ゴーレム。

 あれが、ヤツの切り札ってわけか。

 

「させるか!」


 俺は聖剣の力でゴーレムを打ち倒そうとするが――それよりも先にラウルの方が動いた。


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 瞬時にゴーレムを敵と判断して襲いかかる。

 恐らく、俺たちの敵というより、自分自身の敵と判断しているのだろう。


「バカめ! 闇雲に突っ込んできて勝てると思うな!」


 マーデンの方は勝利を確信している。

 ヤツは言及していないが――あれは普通のゴーレムじゃない。

 マーデンによって相当なカスタマイズが行われた特注品って感じだ。


「よせ! ラウル!」


 無駄とは分かりながらも、俺は声をかけるしかなかった。

 もちろん、それだけじゃなく、援護するために駆けだしてはいたが、とても今のラウルのスピードにはついていけない。


「はああああああああああああああっ!」


 飛びかかるラウル。

その結末は――

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