第276話 謎の魔法使い
マーデン・ロデルトン。
アビゲイル学園長がその名を知るくらいだから……相当な実力者であることは分かる。
「あ、あの人って……強いんですか?」
恐る恐る尋ねるラウル。
それに対し、学園長は静かに頷いてから説明する。
「マーデン・ロデルトン……実力はあったが、その歯止めの利かない乱暴さゆえにもともと所属していた魔法兵団をクビとなった。その後は違法な人身売買組織を運営していたものの、たったひとりの商人に殲滅させられてしまい、監獄行きになったと聞いていたが……」
つまり、超問題児ってわけか。
……耳が痛いな。
原作【最弱聖剣士の成り上がり】におけるバレット・アルバースだって、最後は貧民街へと消えていったが、今思えば、あれは原作ラウルの情けだったのかもしれない。それまでにやってきたことを振り返れば、監獄行きになっても不思議じゃなかったからな。
もしかしたら、原作のラウルはバレットに更生の機会を与えたのかもしれない。飛躍させすぎかもしれないけど、こうして思い出してみると、ラウルのバレットに対する処遇って、ちょっと違和感を覚えるんだよなぁ。
――って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「ふふふ、高名な魔法使いであるアストル学園のアビゲイル学園長とこうして顔を合わせられるとは、光栄ですな」
「見え透いた世辞はいらない。うちの学生を返してもらおう」
「その要望にはお応えできそうにありませんな」
不敵な笑みを浮かべるマーデン。
周りに傭兵たちがいるし、数の上では確かに向こうが有利だ。
しかし、質という面ではこちらが勝っているはず。
もちろん、このマーデンという人物がどれほどの実力を持っているか不透明ではあるが、聖剣使いと魔剣使いである俺とラウル。そして、学園では随一の格闘術使ことアンドレイ。さらに――ヤツ自身も言っていた、国内でも屈指の実力者であるアビゲイル学園長もいる。
「学園長が出るまでもありません! ここは僕が行きます!」
一歩前に出たラウルが、魔剣に魔力を込める。
「ほぉ……魔剣使いか」
マーデンの表情が一変する。
さっきまでの余裕の態度は消えており、眉根を寄せて険しい顔つきだ。
「これはさっさと決着をつける必要がありそうだ」
どうやら、敵はこちらの実力をキチンと把握しているようだ。
だが、それからどうする気だ?
向こうに逃げだす素振りはない。
ということは、まだ連中には備えがあるということだ。
「ラウル! ヤツらにはまだ切り札があるみたいだ!」
「それなら――使われる前に倒します!」
「あっ! おい!」
珍しく、ラウルが熱くなっている。
これまでの彼なら、あんな無謀な行動には出なかったはず。あまりにも普段と違いすぎる動きに学園長もアンドレイも驚いて動けなくなっていた。
……いや、前にも一度あったぞ。
魔剣の力が暴走した時、ラウルはそれを抑えきれなかった。
しかし、今はもう克服したはずだ。
それがどうして今になって……いや、そもそも、あれと同じ暴走なのか?
「血気盛んだな、少年――だが、私は君のような魔剣使いにはいい思い出がなくてね」
迎え撃つマーデンは未だに余裕の態度を崩していない。
……嫌な予感だ。
「くらえっ!」
ラウルの魔剣がマーデンを襲う――が、その直後、強い衝撃に弾かれてラウルの体は宙を舞った。
「!? シールド魔法か!?」
マーデンは魔法で作りだした盾でラウルの攻撃を防いだ。
「申し分ない一撃だが、冷静さを欠きすぎているな。私が以前戦った魔剣使いは、もう少し冷静な男だったが」
どうやら、以前ラウルと同じ魔剣使いと戦った経験があるらしい。話を聞く限り、その人もかなりの腕前だったようだ。
――しかし、当然それだけではないはずだ。
敵の切り札事態は、まだ姿を見せていない。
ラウルの異変も気になるところだが、今はジャーヴィスとマデリーンを救出することに専念しなくては。
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