第275話 黒幕たち

 学園の地下に隠されていた謎の古代遺跡。

 そこにはとんでもない効果を秘めた魔道具があるらしく、アビゲイル学園長曰く、あまりの強大さに触れることさえ叶わなかったという。

 しかし、長年の研究によりついに持ち出すことに成功。

 さらなる研究のため、一週間ほど前に新しく建造された施設へ移送したらしいが、どうやら今回の黒幕たちはその事実を知らないらしい。それでもこの場所を特定し、恐らく人質として連れ去ったジャーヴィスやマデリーンとともに潜伏した――そして、その黒幕はとうとう俺たちの前に姿を現す。


 犯人は全員で八人いた。


 と言っても、そのうちの六人は武装した兵士。たぶん、雇われた傭兵だろう。その傭兵を雇ってこの遺跡に侵入したのが、残りのふたりだ。


 俺は――いや、俺たちはそのふたりに見覚えがあった。


「っ!? あ、あなたたちは……」


 驚愕のあまり、うまく言葉が出てこない。

 なぜなら、ジャーヴィスとマデリーンをさらい、この学園に危機をもたらそうとした人物は――なんと、さらわれたふたりの父親だったのだ。


 レクルスト家の当主にハルマン家の当主。

 すでに爵位を失い、それまで住んでいた屋敷からも追いだされた彼らの身なりはひどいものだった。

 ボロボロの布切れ同然といった服装。

 栄養状態も悪いらしく、頬がこけており、無精ひげを生やしている姿はお世辞にも清潔とは言えなかった。


 かつては栄華を誇り、国内でも有数の大貴族として知られた両家の当主は、もはや見る影もない。犯した罪の重さからすれば自業自得と言えるのだが……あまりいい気分はしないな。


 ――しかし、変わり果てたふたりの様子に驚いて忘れかけていたが、冷静になってみるとあのふたりは自分の娘を人質のようにして連れ回し、この遺跡にある魔道具を奪いに来たってことになる。


 ハルマン家とレクルスト家くらい権力があったなら、きっとこの地下遺跡やそこに眠る魔道具の存在も知っていたはず。恐らく、魔道具を盗みだし、それを売り払って再び贅沢な暮らしをしようと画策したのだろう。


「バレット!」

「先輩!」


 兵士たちに囚われているジャーヴィスとマデリーンが、俺たちの存在に気づいて叫ぶ。

 

「気をつけるんだ! 敵の中に凄腕の魔法使いがいるぞ!」


 ジャーヴィスが与えてくれたヒント――なるほど、そいつが学園関係者をあんな風に傷つけたってわけか。


「そ、そうとも! 俺たちには用心棒がいるんだ!」

「やっちまってください!」


 貴族時代の威厳溢れる姿は跡形もなくなり、すっかり小物が板についた元当主のふたり。

 だが、その用心棒とやらには注意が必要そうだな。


 周囲を警戒していると、


「どこを見ているのかね?」


 すぐ近くから声がした。

 振り返ると、俺たちのすぐ近くに黒いローブで全身を覆った男が立っていた。


「なっ!?」

 

 慌てて飛び退く俺たち。

 まったく気配を悟られることなく近づかれるなんて……相当な実力者だぞ。

 余裕の表れなのか、男はローブを取って素顔をさらす。

 直後、アビゲイル学園長が叫んだ。


「マーデン・ロデルトン!?」


 どうやら、相手は有名人らしい。

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