第272話 敵の狙い

 黒幕の男たちがマデリーンとジャーヴィスを連れ込んだとされる学園地下ダンジョン。

 けど……ここもかなり厳重なセキュリティーが敷かれている。立っているだけでもそれがヒシヒシと伝わってくるくらいだ。

 

 だが、そうなると、あのふたりをさらったヤツはこれらの厳戒態勢をかいくぐって侵入したことになる。そうなってくると、やはり学園関係者なのか――が、その時、俺の脳裏にある人物の顔が浮かんだ。


 ――《この世界を知る者だ》。


 サレンシア王国留学の際も、俺たちの前に立ちふさがったヤツなら、これくらいのことをやってのけそうな気がする。正直なところ、その実力自体は未知数なので断言はできないが……やっていてもおかしくはないという不気味さがある。


「どうかしたか?」

「い、いえ……なんでもありません。ちょっと緊張しているだけです」

「君が緊張とは珍しいね」


 学園長は茶化されつつ、俺たちはゆっくりとダンジョンへ足を踏み入れる。

 もちろん、俺たち以外にも多くの学園関係者がこの地下ダンジョンでふたりを探索し続けていた。ここは近いうちに移転されるということで、これまでその存在を隠していた騎士や職員たちにも開放したらしい。


 まあ、非常事態だし、連中の狙いは地下にある秘密の存在らしいから、総力戦で挑まなければならないだろう。そうなると、戦力の増強は急務だから仕方ないか。


 それに、今回は学園長も同行してくれるらしい。

 これで戦力強化はバッチリだな。


 さて、問題のふたりの居場所だが……かすかに魔力の反応がある。

 どうやら、距離が縮まったことで聖剣が反応したようだ。


「アビゲイル学園長、この距離からならマデリーンたちを追えます」

「それは朗報ね。――他の者たちには、使い魔を送ってこのことを伝えてもらうわ」


 学園長はそう言うと、パチンと指を鳴らす。

 すると、さっきまでは気づかなかったのだが、ダンジョンの天井にスタンバイしていたたくさんのコウモリたちが学園長の周りへ集まってくる。その数は少なくとも百以上はある――これらすべてが学園長の使い魔か。


「この子たちには戦闘能力がない分、すぐに情報を伝達させることができるスピードを有している。きっと、すぐに他の者たちへ知らせてくれるはずだ」


 頼もしい限りだな、ホント。


「それで、場所は?」

「ここから南西に進んだ距離にいるみたいです」

「南西……」


 途端に、学園長の表情が曇った。

 なんだ?

 南西方向に何があるっていうんだ?


「学園長?」

「……これは、手早く動いた方が良さそうね」

「えっ?」

「ヤツらは真っ直ぐにアレを目指している。――まさか!」


 ここで、学園長が何かに気づき、すぐさま使い魔たちを解き放った。


「ど、どうかしたんですか、学園長!?」

「説明してください!」


 様子が急変した学園長のもとへ、アンドレイとクライネが迫る。ティーテやユーリカ、そしてラウルも心配そうな表情を浮かべていた。


 あの学園長があそこまで慌てるなんて……よほどのことなのだろう。

 もしや――あのふたりの身に何かあったのか!?

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