第270話 学園長の決断

 学園はそもそも地下にある「何か」を守るためにつくられた――学園長からの情報は、俺たちに衝撃を与えた。


「じゃ、じゃあ、その地下にあるっていう物も移転するんですね?」


 俺が尋ねると、アビゲイル学園長は静かに頷いた。


「我々としてはその移転作業中の隙をついて、何者かが学園の地下に眠るアレを奪いに来ると想定していたが……もしかしたら、今回のふたりの失踪事件もそれに関係しているのかもしれない」

「そ、そんな……」

 

 一体誰が、何の目的でジャーヴィスとマデリーンをさらっていうんだ。

 そもそもなぜあのふたりなのか。

 すでに貴族ではない彼女たちが恨まれたり、狙われたりする理由なんて――


「あっ」


 これまでの経緯を思い出しているうちに、俺はあることに気がついた。


「学園長……関係があるかどうか、ハッキリしたことまでは断言できないのですが――ジャーヴィスとマデリーンにはある共通点があります」

「何っ?」


 その言葉を耳にすると、学園長だけでなく他のメンバーの視線も一斉に俺へと集まった。


「ふたりは元貴族です。昨年の学園祭をきっかけに、不正に関与していた両家の当主はそれぞれ爵位を剥奪されましたが――」

「ふたりの娘は学園に残っている、と」


 ジャーヴィスとマデリーンのふたりが学園に残れたのは、アビゲイル学園長の尽力が大きく影響している。一方で、主犯格だった当主ふたりは地位を失い、親戚縁者にも多大な迷惑をもたらした。


 もしかしたら、彼らの逆恨みという線はないだろうか。

 親子という簡単には切れない関係で結ばれてこそいるが、貴族社会は特殊な事情が多すぎるからな。いくら子どもとはいえ、平民たちとはまるで違う優雅な生活を送っていた彼らが、突然何もかもを失ったら……冷静な判断力を失って娘たちに牙をむくことも可能性としてまったくないとは言えなかった。

 

 ただ、学園側もそれは危惧していたらしい。


「念のため、彼らが爵位を剥奪されて以降も、こちらで監視をつけて動向を見張ってはいるのだが……特に目立った動きはないという報告を受けている」


 学生側の安全を守る義務がある学園長にも、その手の情報が回ってくるってわけか。

 だが、その口ぶりだと両家の元当主は今回の誘拐事件に関与していないってことになる。


 ――と、思ったが、


「しかし、バレットの言う通り……今回さらわれたのがそのふたりというのが気になる。そちらの線を念頭に置いた方がよさそうだな」


 消えたジャーヴィスとマデリーンを追って、騎士団は地下の試験場へと向かう予定になっている。今しがた得た情報を伝えに行くのだろうが、


「……あの、学園長」

「皆まで言うな、バレット」


 俺がある提案を持ちかけようとした時、すでに学園長はその流れを読んでいた。


「君たちもついてきてくれ。今は少しでも人手がいる。地下に眠るアレを狙っての犯行だとしたら――学園騎士団の力を借りなければならないだろうからな」


 学園長の言葉に対し、俺たちは揃って「はい!」と力強く返事をする。

 こうして、俺たちはジャーヴィスとマデリーンの行方を追って謎多き学園の地下へと向かうのだった。

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