第269話 真相

 未だに行方が分からないマデリーンとジャーヴィスを捜しだす――明確な目標はあるが、俺たちは手がかりのひとつも見つけられないでいた。


 そんな時、アビゲイル学園長は今回の事件のキーとなっている学園地下図書館についての話をしてくれた。

 ただし、周囲に情報が漏れるのを警戒してか、学園長は俺たちのいる部屋に結界魔法をかけて外部との接触を遮断する。


「地下図書館というのは正式な名称ではない。……試験段階にある魔法アイテムの実用試験を行う施設だ」

「魔法アイテムの実用実験?」


 なんだか、思っていた場所とはイメージがかけ離れているな。それでも、アビゲイル学園長は「地下にあるとするならこれしかない」と言い切った。


「しかし、だったらどうして地下図書館なんて呼ばれ方をしたんだ?」


 アンドレイがもっともな意見を口にする。

 この学園の地下に、魔法アイテムの性能を試す試験場があるというのは分かった――が、そこからどうして図書館なんて噂が流れるのか、まるで結びつかないのだ。

 こうした疑問に対し、学園長は自らの見解を述べる。


「噂の発生源を特定したわけじゃないから何とも言えないけど……実はその試験場へ通じる道は、あなたたちが入った書庫からそれほど離れていない場所にあるの」

「えっ?」


 つまり、図書館が試験場へつながる通り道になっているわけか。

 ……でも、待てよ。

 もしそうだとするなら、新たな疑問が生まれる。


「その事実を知っている人が、外へ情報を漏らしたということですか?」

「我々はそう踏んでいる。――とはいえ、この噂を学園側がキャッチしたのは、本当に最近の話しなんだ」

「最近?」


 それもまた妙な話だ。

 マデリーンが姿をくらませる直前に会っていたという友人ドロシーからの情報によると、地下図書館の噂はずっと前からあったとされている。

 恐らく、その施設の存在を知る人の中には地下図書館=魔法アイテム試験場という図式が出来上がっているのだろう。だが、一緒に行動した限り、あのテシェイラ先生でさえその試験場の存在は知らない様子だった。そうした事実から、本当に限られたごく一部の人間しか存在を知らない、トップシークレットであると言える。


 ――でも、いいのか?

 そんな重要なことを俺たちに話してしまって。


「テシェイラも知らない重大事項を自分たちに話してしまってよいのか――そういう顔をしているな」


 あっさりとこちらの思考を読み取るアビゲイル学園長。

 この辺はさすがに切れ者だな。


「その点は心配いらない。あの施設は近いうちに移転することが決定している」

「移転?」

「そうだ。――なぜ、学生たちの多い学園に、そのような施設を作ったと思う?」


 学園長は不敵な笑みを浮かべながら、俺たちにそう尋ねる。

 当然、そのような理由など俺たちでは皆目見当もつかない。

 沈黙が流れる中、アビゲイル学園長は俺たちのギブアップを悟って正解を語りはじめた。


「そもそも、考え方が逆なんだ。この学園ができてからあの試験場がつくられたのではなく、試験場がつくられたあとに学園ができたんだ」

「なっ!?」


 俺たちは騒然となる。

 なら、学園の存在はその施設を隠すためのカモフラージュだったってことか?


 ――が、どうやら真相は違ったらしい。


「このアストル学園や試験場は……地下に眠るある物を守るためにつくられたのだ」


 それまでとは声色を変えて、学園長が重苦しく告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る