第266話 仕掛けられた罠
「ま、まずいこと……ですか?」
テシェイラ先生が言うまずいこと――正直なところ、なんとなくではあるが察していた。
《外部からこの書庫へ封印魔法がかけられている。なぜか私ははじき出されてしまったようだが……今、他の職員たちと救出のための策を練っているところだ》
「分かりました。俺たちは中で待機をしています」
《話が早くて助かるよ。では、動きがあり次第、連絡する》
そこで、テシェイラ先生の声は途切れた。
「みんな、聞いてくれ」
俺は今この書庫で起きている事象をメンバーに説明し、これからの対処はひとまず先生方にお任せする方向であると告げた。
封印魔法……確か、特定の場所から人を外へ出さないという魔法だった。打ち破ることは可能だが、テシェイラ先生の話しぶりだと、それは難しいようだ。名うての魔法使いが集うこの学園の中でも、屈指の実力者であるテシェイラ先生でさえその反応というなら、これを仕掛けたのは相当な実力者だろう。
問題は、その実力者がなぜ学園にちょっかいをかけてきたのかという点だ。
ここは王立アストル学園――貴族や、学生を除けば王家の関係者も在籍する国の重要な教育機関。ここに手を出すってことは、国家を丸ごと相手にするようなもの……その自覚があるかないかで、本気度が分かるな。
「しっかし、ここにいて何もできないというのは歯がゆいな」
「そうよねぇ……アンドレイ。あなたのパワーで扉を破壊できないかしら」
「っ! それは名案だ。早速試してみよう」
「ちょ、ちょっと! 今の冗談だからね!」
アンドレイのクライネが何やら盛り上がっているが……案外、彼のパワーならやってやれないことはなさそうだな。
と、まあ、冗談はさておいて。
恐らく、今回の罠を仕掛けてきたヤツは、マデリーンをさらった黒幕でもあるのだろう。そもそも、マデリーンをさらったのだって理由がよく分からないというのに、今回、こうやって俺たちを閉じ込めておく理由が見えない。
もし、俺たちの誰かに危害を加えるのなら、すでに手を打ってきているはず。ただ、現状ではなんの代わり映えもしない。
「……一体、誰がこのような事態を引き起こしているのでしょうか」
不安げに呟くティーテ。
やはり、問題は敵の正体が一切不明ってところだよな。こういう事態は今までなかったわけだし、そりゃ不安にもなる。
それにしても……相手はなぜマデリーンを標的にしたんだろう。
最初から彼女が狙いなら、わざわざこうして俺たちを封印魔法で閉じ込める必要もないわけだし。もしかしたら――マデリーン誘拐はあくまでも格好だけで、本来の狙いは別のところにあるのではないか。
だとしたら、より連携をしっかりしておかないと。
そう思った俺は、辺りを見回してみる。
すると、
「――あれ?」
違和感を覚えた。
なんだ?
さっきまでと明らかに「何か」が違う。
その違いを探って、注意深く周りを見ていくが……なんだ? まるで思考に靄がかかったような感覚だ。頭の回転が鈍くなるというか、考えがまとまらない。
「くそっ……一体なんだっていうんだ」
謎の現象に戸惑いながらも……俺はとうとう違和感の正体に気づいた。
「ジャ、ジャーヴィスがいない!?」
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