第265話 消えたテシェイラ

 学園図書館にある書庫へ入れる限られた人物――テシェイラ先生が失踪した。

 ……まあ、失踪と決めつけるにはいささか早計かもしれない。あのテシェイラ先生のことだから、今頃どこかで読書に夢中となっているかも。


 これ以上行方不明者が増えるのを避けるため、手分けしての捜索へと切り替える。

 しかし、特にこれといった成果は得られず、書庫の入口へと戻ってきてしまった。


「まさか……マデリーンに続いてテシェイラ先生まで行方不明になっちゃったの?」


 声を震わせながら、クライネが言う。

 それに異を唱えたのはアンドレイだった。

 

「いや……それにしてもおかしくないか? 確かに、マデリーンは二年生の中でトップクラスの実力を誇っていたが、腕の立つヤツが相手なら囚われてしまっても分からなくはない。……でも、テシェイラ先生までってなると話は変わってくるぜ」

「……おかしな点は他にもあるよ」

 

 アンドレイの指摘に、ジャーヴィスが自身の考えを付け足す。


「ここはブランシャル王立アストル学園――大陸でも屈指の実力者が揃う学園として有名だ。その学園で、学生と教師のふたりを短時間のうちに捕えることなど、並大抵の実力では不可能だ」


 ……俺も同じことを思っていた。

 このアストル学園には、貴族の子どもたちも大勢通っている。そのため、セキュリティーに関しては相当厳重なものとなっていた。ただでさえ、昨年の舞踏会で起きた合成魔獣乱入の件もあってピリピリしているというのに……その厳戒態勢をかいくぐって、学園内に侵入し、人をさらうなんて。


「! ……もしかしたら」


 ある予感が、脳裏をよぎった。

 アストル学園は厳重な警戒態勢が敷かれている。それはよからぬ企みを抱く悪党の侵入を防ぐための対策だが――その悪党が、最初から学園の中にいたとしたら?


 つまり、今回の一連の騒動のバックには……学園の関係者が絡んでいるという可能性はないだろうか。


「バレット……」


 不意に、ティーテが俺の制服の裾を摘まむ。

 きっとまた、険しい表情をしていて心配をかけたのだろう。


「大丈夫だよ、ティーテ」


 俺はティーテの手の上に自分の手をそっと重ねる。

 ――ちょうどその時だった。


《聞こえるか、バレット》


 声が聞こえた。

 しかもこの声って、


「テシェイラ先生!?」


 思わず叫ぶ。

 それに反応して、みんなの視線がこちらへと向けられた。そのうち、代表してジャーヴィスが俺に話しかける。


「バレット、テシェイラ先生を見つけたのか?」

「いや、見つけたというか……声がしたんだ」

「声?」

「何も聞こえませんでしたけど……」


 ラウルが言うと、みんなは顔を見合わせて確認を取る。すると、俺以外の誰もテシェイラ先生の声を聞かなかったという。あれだけハッキリ聞こえていたというのに――いや、思い出してみると、ちょっと変だったな。

 話し声を聞いているというより……頭の中へ直接話しかけているみたいな、不思議な感覚だった。


《どうやら成功したみたいだね。私が考案した新しい魔法が》

「えっ!?」


 まただ。

 それにしても、新しい魔法って――まさか、この声に関係しているのか?


《聞こえているね、バレット》

「は、はい」

《ならば単刀直入に言うが――非常にまずいことになった》


 テシェイラ先生にしては珍しく、随分と切羽詰まったような口調だった。

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