第263話 禁断の書庫へ

 図書館の本に残されたマデリーンの魔力を追っていく俺たち。

 ――と、その前に、別行動をしているラウルたちを呼び、合流してから行動を開始することにした。

この判断は、俺の直感だった。

マデリーンが魔力を残していった事実――仮に、本来のターゲットは彼女ではなく、この中にいる誰かを狙って誘っているのだとしたら、万全の態勢で待ち構えている可能性は非常に高いと言える。


それは、サレンシア王国でマリナがさらわれた件の反省からきていた。

あの時はなんとかなったけど、今度からはもっと周囲に注意をしていかないと……今回の件だって、もしかしたらその誘拐事件の黒幕だった《この世界を知る者》が絡んでいるかもしれないし。

 といったわけで、みんなと合流してからマデリーンの魔力を追い、たどり着いた場所は、


「ここって……書庫か?」


 学生ならば誰でも入ることができる図書館において、唯一、ごく限られた者しか入ることを許されない場所がある――それがここ、書庫だ。


「書庫の中に入ったなんて……」

「なんとも厄介な展開だね」


 ティーテとジャーヴィスが落胆するのも無理はない。

 どういう方法でマデリーンがこの中へ入ったのかは分からないが、俺たちがここへ入るのは至難の業だ。許可を取ろうにも、そう簡単には――


「ほら、入ろう」


 悩んでいると、テシェイラ先生が書庫の扉を開けて俺たちを呼んでいる。

 ……テシェイラ先生?


「あっ!」


 そうだよ!

 テシェイラ先生はその「限られた者」じゃないか!


「で、でも、俺たちが勝手に入っても大丈夫なんすか?」


 不安そうにテシェイラ先生へ尋ねるアンドレイ。実を言うと、俺もそれが気がかりではあった。――が、


「気にする必要はない」


 俺たちのそんな心配をあざ笑うように一蹴するテシェイラ先生。


「アストル学園の歴代生徒会でも、君たちは屈指の実力者だと思っている。……ここに入る資格は十分にあるさ」

「テシェイラ先生……」


 そこまで俺たちのことを認めてくれていたとは……なんだか、嬉しいな。


「さあ、案内するよ」


 気持ちも新たに、俺たちはテシェイラ先生の案内で書庫へと足を踏み入れる。

 そこはまさに――別世界だった。


「す、凄い……」


 想像を絶する光景を前に、語彙力が一瞬で失われる。

 先生曰く、ここは特殊な空間魔法によってつくられているらしく、どう考えても外から見る図書館よりも大きい。


 さらに運の悪いことに、ここでマデリーンの魔力はなくなっていたのだ。


「で、でも、これは……」

「こんな広い空間から、マデリーンを捜しだすのか……」

「骨が折れそうね」


 ラウル、ユーリカ、クライネの表情が引きつる。

 さっきの図書館よりもさらに広い空間で手がかりなし――これでは、魔力が込められた本を見つける前よりも難易度が上がっているのだ。


「とりあえず、手分けして捜すしかなさそうだな」

「なら、私は魔力が残っていないか、その線から探ってみることにするよ」

「お願いします、先生」


 こうして、俺たちのマデリーン捜索は振出しに戻った。

 ――が、確実に彼女の居場所に近づいている。

 そう感じていた。

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