第254話 別荘へ

 翌日から、俺たちは別荘へと移動を開始。

 到着して昼食を済ませると、俺とティーテは去年も訪れた湖へと行くことにした。

 もちろん、ふたりきりというわけではなく、うちのメイド三人娘にユーリカを加えたいつもの体制になったが……まあ、こればっかりは仕方ないね。


 というわけで、サレンシア王国への短期留学も無事に終わり、ティーテも合流できて、ようやく俺たちの夏休みが本格的に始まった。

 

 短期留学といえば、今年の秋の学園祭にランドルフ学園の生徒会を招く予定になっているんだったな。アンネッテ会長たちには、武闘大会などのイベントを見てもらいつつ、最後の後夜祭まで楽しんでいってもらう予定でいる。


 ――って、いかん。

 今は夏休み。

 しかもティーテとお出かけ中。

 こちらに集中しなくては。


「わあ! 綺麗ですね!」

「ここの景色は変わらないな」


 去年来たばかりだし、それほど大きな変化はない。

 けど、それがかえって嬉しかったりするんだよなぁ。


「バレット! もっと湖に近づいてみましょう!」

「ははは、了解」


 興奮気味のティーテを連れて、歩きだす。

 ちなみに、マリナたちはティータイムの準備をするため、その場へ残ることになった。いざとなれば聖剣もあるし、大丈夫だろう。


 そういえば、去年はここでラウルとバッタリ遭遇したんだったな。あの時は放浪の旅ってことだからどこへ向かったか分からなかったが、今回は西方へクラウスさんの知人である商人を訪ねていくと聞いている。

 なんでも、恐ろしく強い商人でラウルと同じ魔剣使いらしい。

 一体どんな人なのか……ちょっと興味あるな。

 

恋人であるユーリカは寂しそうにしていたけど、ラウルの気持ちも分かると修行の旅についていくことはなく、自身の職務を全うしている。ティーテのことだから、ユーリカが「ラウルについていきたい!」と願えば、叶えてくれそうではあるが……そうしたティーテの優しさに甘えないよう心掛けているようだ。まさにプロフェッショナルだな。

 

 湖畔を歩きながら、俺たちはなんでもない話に花を咲かせた。

 真夏ではあるが、高原ということもあって時折涼やかな風が吹く。とても快適な気候で、まさに避暑地とするには相応しい場所だ。


「来年もまた来たいですね!」

「ああ――その時は正式に夫婦なんだよな」

「えっ?」

「あっ」


 しまった。

 思わず考えていたことがポロッと口から出てしまった。

 まあ、別に何も間違ったことじゃないからいいんだけど……それに、耳まで真っ赤にしているティーテを見られたのだから数秒前の俺、グッジョブ。


 しかし……ティーテとの新婚生活かぁ。

 ――まあ、俺は将来的に父上のあとを継いで領主となるわけだから、そのための勉強もあって今ほど自由な時間はなくなるんだろうけど……それでも、ティーテがそばにいてくれるだけで幸せだ。


 となると、問題になってくるのはやはりヤツの存在。


【この世界を知る者】――きっと、学園祭でも何かを仕掛けてくるに違いない。

 ヤツが何者で、狙いは何なのか……その正体を一刻も早くつきとめないと。

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