第253話 庭園談義

 ティーテ成分が不足している中、ようやく、


「バレット!!」

「ティーテ!!」


 エーレンヴェルク家が到着した。


「久しぶりね、ユーリカ」

「元気だった?」

「メイド修行も順調ですか?」

「はい! みなさんのように立派なメイドとなるべく、日々元気に挑戦しています!」


 マリナ、プリーム、レベッカにとっても、妹分であるユーリカと久しぶりに再会できて嬉しそうだ。


 その後、ティーテのご両親に挨拶を済ませると、早速、俺とティーテは一緒に屋敷の庭園へと向かう。

 そこでは先日新しく雇ったという庭師の女性・サリーさんが手入れに勤しんでいた。彼女は長年このアルバース家に仕え、昨年現役を引退したロブ兄さんのお孫さんだ。


「サリーさん」

「あら、バレット様。そちらの方は?」

「この子がティーテだよ」

「えっ!?」


 名前こそ事前に聞いていたのだろうが、まだうちへ来て間もない彼女はティーテの顔を知らなかった。まあ、無理もないか。

 俺が連れてきた子が婚約者のティーテであると分かった途端、サリーさんは大慌てで挨拶に向かう。

 それから少し落ち着きを取り戻し、庭園の案内を始めた。


「わあ~、とっても綺麗ですね!」


 ティーテは瞳を輝かせながら新しくなった庭園を眺めている。

 元緑化委員の人間である俺だが、在籍期間は短く、そのためティーテほど草花に詳しくはない――だけど、庭園が今までと少し雰囲気が異なることに気づいた。


「な、なんだろう……よく分からないけど、生まれ変わったって感じだな」


 ロブ爺さんが手入れをしていた庭と比べると……特に目立った変化があるとは思えない。だけど、どこかが違う。ぼんやりとだけど、そう思っていた。どうやら、俺だけじゃなく、うちのメイド三人娘とユーリカも同じらしく、不思議そうな表情で周りを眺めている。


「いいですね、ここ」

「ほ、本当ですか?」

「以前と変わらないように見えて、新しい風が吹いています」

「そこまで分かるんですか!?」

 

 草花の知識に長けているだけでなく、これまでいろんな庭園を見て回っているティーテには、俺たちが気づかない相違点をしっかりと把握しているようだった。


「やっぱり……ところどころにあなたの色が出ていますから」


 そう言うと、ティーテは以前来た時と変化している点をいくつか指摘し始めた。それは本当に些細なことで、聞いている俺たちでもよく理解できないことがチラチラ出てきているが、サリーさんは興味深げに聞き入っている。


「お爺ちゃんに聞いた通り……さすがですぅ……」


 サリーさんの表情は、もはや憧れの領域に足を突っ込んでいるな。


「ティーテ様を取られちゃいましたね、バレット様」


 そんな俺に、ユーリカが声をかけてきた。

 

「まあ、楽しそうにしているからいいよ」

「さすがはバレット様!」

「夫として余裕の態度ですね!」

「というか、サリーは女性なのでライバルにならないのでは?」


 レベッカの正論は置いておくとして……そういう目では見ていないんだよなぁ。

 とりあえず、ティーテとサリーさんの庭園談義が終わったら、改めて夏休みの計画を練るとしよう。

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