第250話 ようやく始まる夏休み

「いろいろとご苦労だったね」


 実家へと戻る前日。

 俺は再び学園長室を訪れた。


 夏休みの課題として留学先での体験をまとめたレポートの提出するよう言われたのだが、そのことについて少し質問したかったのと……なんとなく、アビゲイル学園長が「俺に用があるのではないか」という予感めいたものがあって足を運んだ。


 ――そんな俺の予感は見事に的中していた。


「君には改めて礼を言わなければと思っていたんだ」

「礼……ですか?」

「そうだ。君たちのおかげでこのブランシャル王国とサレンシア王国は最悪の未来を回避することができた。君は英雄だよ」


 いつも明るいアビゲイル学園長から、真面目なトーンでそんなことを言われるなんて……なんというか、物凄く照れ臭い。

 ただ、いい報告だけで終わりというわけではないようで、


「そうそう。サレンシアからちょっと気になる追加報告があったんだ」

「追加報告?」

 

 それは間違いなく、魔鉱石の違法採掘を行っていた連中に関する情報だろう。


「何か、連中に関する新情報が?」

「……いや、実はある目撃例だ」

「目撃例?」

「彼らのリーダーは……少女にやられたと言っている。それは君も知っているね?」

「え、えぇ」


 少女――それは、【この世界を知る者】を指している。

 実際、リーダーの男はヤツによってダメージを与えられたみたいだし、俺もその件については包み隠さず話している。……訂正。あの女の正体に関しては伏せておいたけど。


「君はその少女が何者であるか……本当に知らないんだね?」

「はい」


 俺は即答した。

 ヤツの正体に関しては……知られるわけにはいかない。ヤツ自身、自らの正体は誰にも名乗っていないようだが、それもどこまで信用していいのか不透明だ。

 そもそも、目的が分からない。

 一体、何をしに俺の前に現れているのか――もしかしたら、何かとんでもないことをやろうとしているのではないか。


 例えば……この世界を滅ぼすとか?


「険しい顔つきだね」

「えっ? あっ……」


 表情に出ていたのか……相変わらず、この悪癖だけは治らないな。


「まあ、これ以上は何も言わないが……これだけは覚えておいてもらいたい。私たちはいつでも君の味方である、と」

「ありがとうございます、アビゲイル学園長」


 思うところはあるのだろうが、俺の口から事情を説明されるまでは保留にしておくという配慮……素直にありがたかった。



 学園長の部屋を出て、俺は正門へと向かう。

 そこにはすでに荷物を積み終えた二台の馬車があった。


「おかえりなさいませ、バレット様」

「準備は万端です」

「いつでもいけますにゃ!」

「ありがとう。じゃあ、すぐにでも出発しよう」


 マリナ、レベッカ、プリームのメイド三人娘からそう報告を受ける。

 本来ならティーテも一緒に行くはずだったが、今朝方、エーレンヴェルク家から先に家へ寄ってもらいたいという通達があり、ユーリカとともにそちらへと向かったのだ。


 一体何の用事で呼ばれたのか……それも十分気になるところではあるが、とりあえず今は俺も自分の両親に顔を見せに行くとしよう。

 予定では、翌日にティーテがうちを訪ねることになっているし、またすぐに会える。


「さあ、行こうか」

「「「はい!」」」


 メイド三人娘にそう言って、俺は馬車へと乗り込んだ。

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