第249話 事件のその後

 これで、すべてが解決した。

 俺をおびき出すためにマリナを誘拐した連中は、漏れなく全員がサレンシア王国騎士団の手によって牢獄送りとなった。


 残念ながら、実行犯の連中が何を吐いたのか――その全容について、俺が知らされることはなかった。まあ、所詮はただの学生だし、そもそもこれは他国の問題。巻き込まれた身であるとしても、さすがに情報提供はしてもらえないだろう。


 最後に思わぬトラブルがあったけど、無事に誰も欠けることなく帰れるのだから、それで満足しなくては。


 

 ――と、あきらめていた後日。

 諸々の報告を終え、ようやく始まった夏の長期休暇を実家で過ごすため、戻る準備をしていた俺のもとに一枚の手紙が送られてきた。


 差出人は不明だったが……

 

「うん?」


 わずかに込められた魔力から、恐らく送り主はアビゲイル学園長だと推察された。


「学園長が俺に……?」


 しかも、わざわざ名前を書かずに魔力だけで判断させ、おまけに直接渡さずに使い魔を通しての手紙――もはや怪しさしかないが、その中身は俺がもっとも知りたいと思っていた、例の事件のその後について書かれていた。


 それによると――やはり、ヤツらは学園ダンジョンの地下で魔鉱石の違法採掘を繰り返しており、それをブランシャル王国の貴族に売りさばいていたことが発覚した。


 その貴族というのも、原作である【最弱聖剣士の成り上がり】にあった通り、レクルスト家とハルマン家であった。


 ただ、ふたつとも昨年の学園祭以降、権力と財力が直滑降してしまったため、彼らは大量の在庫を抱えるハメになってしまった。その在庫処分のため、別の貴族へ声かけをしたらしいのだが、思うようにさばけず、最終的に標的となったのが、


「えっ!? うち!?」


 マリナのさらったその真の目的は、俺の実家――つまり、アルバース家に買い取ってもらおうとしたらしい。

 どうやら、連中には俺の悪名も伝わっているようで、それならこの話に乗ってくるんじゃないかと思ったって供述をしたみたいだが……もし、悪名高いままだったら、留学生に選ばれていないだろうに。マリナをさらったのは念のための保険って意味合いもあったようだが、正直無駄な努力だったな。


 あと、仮に連中が俺へそのような話を持ち掛けてきたとしても、受け入れることはなかっただろう。


 残念ながら、今の俺はティーテとの明るく幸せな未来のため、クリーンな勇者を心掛けている。


 で、そのティーテだが、


「明日から楽しみですね!」


 めちゃめちゃ浮かれていた。

 本来ならば夏の長期休暇ということ、さらに、今回の留学での頑張りが認められ、メイドたちの監視付きという条件はあるが、消灯時間ギリギリまで一緒に自室で話をすることができたのだ。


 ――っと、その話は置いておくとして。

 ティーテが浮かれているのには訳がある。


 なぜなら、今回は学生最後の夏休み――つまり、いよいよ俺とティーテの結婚まで、あと半分を切ったということになる。

 どうやら、ティーテはそれが嬉しいらしい。

 マリナ、プリーム、レベッカ、そしてユーリカも、そんな浮かれているティーテを微笑ましく見守っている。


 ……このまま、何事もなく卒業を迎えたいのだけどな。

 果たして、【この世界を知る者】がこれからどんな動きを見せるのか……そこが最大の不安要素だな。

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