第247話 へし折れた破滅へのフラグ

 相変わらずの軽薄で、どこか人を小馬鹿にしているかのような口調――やはり、【この世界を知る者】が絡んでいたか。


「おまえ……」


 ヤツの前に出た俺の視界には、第三の存在も入っている。

 それは、先ほど叫び声をあげた男。

 右腕にドラゴンのタトゥーの淹れているその男が……もしかして、マリナをさらった連中を束ねていた真のボスか?


「この男……知ってる?」

「えっ? い、いや、初めて見る顔だ」

「そう? 本当に?」

「どう意味だ……」


 もしかして、俺が転生してくる前からの知り合い?

 ……いや、共有しているバレットの記憶の中に、この男の顔はなかった。

 俺を動揺させるための罠か?

 でも、だとしたらなぜそのようなマネを?


「思い出してみてよ。――第三章の十四話」

「第三章十四話……」


 それは、元作【最弱聖剣士の成り上がり】の話だろう。

 第三章って……俺が――ああ、いや、原作版バレットが貧民街へ堕ちていった次の章か。


 その第十四話……確か、あの時の展開って、


「……ブランシャル王国が挙兵した話か」


 バレットやティーテの故郷であるブランシャル王国。

 今でこそ平和な国だが、二章後半あたりから雲行きが怪しくなってくる。

 それは――他国との戦争がきっかけであった。


 けど、それとこのドラゴンタトゥーの男がどう関係してくるっていうんだ?


「大体の内容は思い出せたようだね。――じゃあ、ひとついいことを教えてあげるよ」

「いいこと?」

「あの戦争……この男がきっかけで始まったの」

「えっ!?」


 さすがにそれは初耳だ。


「学園の地下ダンジョンには行ったでしょ?」

「あ、ああ」

「あそこで採掘される魔鉱石はことのほか上質でね。世界的にも有名なエノドア産にも匹敵するって言われているの」

「それがどうしたっていうんだ?」

「この男はその魔鉱石を無断で大量に採掘し、それを隣のブランシャル王国へ横流ししていたの。それが発覚して国際問題にまで発展し、たどり着いた先があの戦争なの」

「なっ!?」


 まさか……それじゃあ、原作でブランシャル王国が戦争していた相手国って――


「サレンシア王国が戦争の相手だったのか……」

「ちなみに横流しを依頼していたのはブランシャル王国側よ。主犯格は貴族のレクルスト家とハルマン家」

「レクルスト家とハルマン家って!?」


 ジャーヴィスとマデリーンの実家じゃないか!

 あいつら……そんな大規模な犯罪にまで手を染めていたのか。


「って、ちょっと待て! そのふたりはすでに貴族としての地位を追われているぞ!」

「えぇ。あなたの活躍もあって、ね。ほら、だからあんなに在庫が」


【この世界を知る者】が指さす先には大量の木箱が積まれていた。

 あれ全部が魔鉱石なのか……これだけの量がさばけないとなれば、確かに大損害だ。


「! ま、まさか……ヤツらが俺を狙った理由って……」

「レクルスト家とハルマン家の悪事が露呈するきっかけになったのは――あなただからね」


 ……そういうことだったのか。

 でも、それならむしろ喜ぶべきことだ。

 レクルスト家とハルマン家がいなくなり、魔鉱石の不正な横流しはなくなった。つまり、戦争は回避されたんだからな。


 ――だが、それならどうしてヤツは俺の目の前に姿を見せたんだ?

 その根本的な理由には、まだたどり着いていないぞ。

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