第246話 まだ事件は終わっていない

 マリナをさらった犯人たちは、全員捕まえることができた。

 現在は拘束魔法で動きを封じているが……さっきの戦闘が原因でみんな気絶しているみたいだし、この場はとりあえず大丈夫そうかな。


 俺はマリナに頼んで、増援を呼んできてもらうことにした。

 さっき、使い魔を送っておいたから、ティーテやレベッカやプリームがこちらへ向かってきているはずだし、すぐ合流できるだろう。


「さて……」


 俺はマリナを見送ると、踵を返して倉庫街へと視線を移す。


「……ラウル」

「なんですか?」

「少しこの場を任せてもいいかな?」

「構いませんけど……何かありましたか?」

「倉庫街の方にまだ誰かいるようだ」

「えっ!?」


 ラウルが驚くのも無理はない。

 恐らく……この異様な魔力を感じ取れていないのだろう。


 ――けど、俺にはヒシヒシと伝わってくる。

 この嫌悪感さえ覚える魔力と気配……紛れもなく「ヤツ」だ。


【この世界を知る者】


 俺がそう名付けた、謎の存在。

 この世界が、俺の前世にあった【最弱聖剣士の成り上がり】という作品そのままであることを知り、俺に対して不穏な言動を繰り返す人物。見たところ女性のようだったが……それも鵜呑みにはできない。何もかもが不透明で不気味な存在だ。


「あ、あの、バレット様?」

「――っ! す、すまない。もしかしたら残党がいるかもしれないから、少し見てくるよ」

「そ、それなら僕も!」

「ここの連中がいつ目覚めるか分からないし、マリナたちから救援要請が来るかもしれないから、君は待機していてくれ」

「で、でも」

「おいおいラウル――俺が負けると思っているのか?」

「!?」


 ちょっとずるい言い方だけど……ここは耐えてもらわないと。

 あいつとラウルを会わせたら、何を言いだすか分からないからな。


 

 ラウルに見張りを頼み、俺は単独で倉庫街をさらに奥へと進んで行った。


「薄気味悪いところだ……」


 いかにも悪党の住処って感じの荒廃ぶりだな。

 ただ、各所に昔の生活の名残と思われる品々が転がっている。これを見る限り、かつてはこの辺りも栄えていたようだな。まあ、老朽化に伴い、新しい港町を造ったって聞いたから、別に悲劇が起きたとか、そんなんじゃないんだけど……どこかもの悲しさというか、哀愁が漂っている。


 そんなことを思いながらしばらく歩いていると、ある倉庫の中に人の気配を感じ取った。


「……どうやら、ここみたいだな」


 ヤツのことだから、俺がここへ来るのはお見通しだろう。

 ……たとえそれが罠であったとしても、俺はあいつからいろいろと聞きだしたいことがあるんだ。


 これまではサラッと流されてきたが……今日こそはハッキリと物申してやる。

 強い決意を胸に倉庫の中へ静かに侵入する――と、


「ぐはあっ!?」


 突然、男の叫び声が聞こえた。

 それに驚いて声のした方向へ走ると、


「あっ、やっと来てくれたぁ」


 俺を待ち構えていたのは……やはり【この世界を知る者】だった。





…………………………………………………………………………………………………


【お知らせ】


 本作のコミカライズ2巻が来週火曜日15日に発売されます!

 ネット通販などでは、すでに発売されているところもあるようです!


 よろしくお願いします!<(_ _)>




 そしてもうひとつ!


 新作を投稿しました!


「聖樹の村で幸せなスローライフを! ~処刑宣告された少年は辺境の地で村長になる~」


https://kakuyomu.jp/works/16816927860376109239


 今回の新作はタイトルにある通り!

 スローライフ×ハーレム×村づくりにプラスしてちょっとした「ざまぁ要素」もあります。

 以上の要素がお好きな方はぜひ読んでみてください!

 そうでもないという人もこの機会にぜひ!

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