第245話 マリナ、奪還

 マリナを人質に取られている以上、こちらからは手が出せない。

 そう確信している連中の態度はますます大きくなっていく。


「へへへ、爽快じゃねぇか……あのアルバース家の子息が、俺たちを前に手も足も出ないとはよぉ」

「……うちを知っているのか?」

「当然知っているぜぇ? 俺たちの依頼人はあんたの家がよほど嫌いらしい」


 あんたの家――つまり、アルバース家に恨みを持つ者が黒幕なのか?

 ……だが、そんなヤツに心当たりはない。

 原作でのアルバース家は、バレット自身が歪んでいるだけで父上は真っ当だった。現に、ラウルの手によってバレットの悪事が露呈した際、その悪質ぶりに激怒して勘当しているくらいだからな。


 そうなってくると……逆恨みか?

 しかし、それだと犯人が絞れないぞ。


「さて、まずは武器を放棄してもらおうか」

「……分かった」


 俺とラウルは男の要求に従って、聖剣と魔剣を手放す。

 ――と、その時、



「バレット様ああああああああああ!」



 遠くの方から、マリナの叫ぶ声が聞こえた。

 慌てて声のした方向へ視線を移すと、こちらに向かって走ってくるマリナの姿が。どうやら一瞬の隙をついて拘束している男たちの手から逃れてきたらしい。


「私に構わず敵を倒してくださいいいいいい!」


 力の限り、マリナは叫ぶ。

 自分が足かせとなってしまうことを嫌うからこその発言なんだろうが――そういうわけにはいかない。俺もラウルも、そんなマリナを助けるためにここまで来たのだから。


「!? バカどもめ! あれほどしっかり見張っていろと言ったのに!」


 リーダー格の男は配下の男たちに命じる。

 それを聞いて、マリナを再び拘束しようと動きだす――が、少し遅かった。男の配下たちは次々とその場へと倒れていく。


「な、なんだ!?」

「残念だったな」


 やったのはラウルだ。

 マリナの無事を確認すると、手放した魔剣を手にして男たちを斬り捨てたのである。――もちろん、気絶させただけで生かしてはある。ヤツらには黒幕についてしっかり証言してもらわなくちゃいけないからな。


――俺だって、ただのんびりとラウルの活躍を見ているわけじゃない。

マリナを助けるため、聖剣を手にして駆けだしていた。


「クソッタレ! こうなったら仕方がねぇ――あの女諸共ガキを殺せ!」


 そう叫ぶと、今度は先ほどの弓矢が一斉にこちらへと放たれる。

 だが、聖剣を手にした俺にそのような攻撃は無意味だ。


 ちょうど俺がマリナのもとへたどり着くと同時に、無数の弓矢も俺やマリナへ――刺さらない。すべての矢は空中で一旦止まり、そのまま地面へと落下した。


「ど、どういうことだ!?」

「重力魔法って知らないのか?」


 無属性魔法に分類される重力魔法。

 世界でも扱える者が少ない代物だけど……本当に便利だな。

 もしかしたら、この世でもっとも強い魔法使いは、無属性魔法使いなのかも――って、攻撃手段にはなりそうにないから、精々土地を開拓するくらいが関の山かな。


 そんな、関係のないことへ思考を避けるくらいには立場が変化する。


「さて、もう終わりだな」

「ぐぐぐ……」


 リーダー格の男はどうにもならないと悟ったのか、その場へとへたり込んだ。

 とりあえず、一応は解決したみたいだな。

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