第242話 捜索開始

 行方が分からなくなったマリナの捜索をするため、俺とティーテ、そして同じメイド仲間であるプリームとレベッカ、さらにユーリカとラウルの四人はもうしばらくサレンシア王国へ残ることとなった。


 もっとも大変だったのが、テシェイラ先生をはじめとした教師陣から許可を取ること。

 こちらの国で勝手な行動は本来許されないのだが、偶然話を聞いたランドルフ学園の学園長が、


「そういうことなら、私が許可を出そう」


 と、言ってくれた。

 その代わり、生徒会長であるアンネッテが新たに同行することとなった。

 表向きは捜索に協力ということだが……まあ、俺たちの動きを監視するって役割も担っているのだろうな。


 だが、俺たちとしては何ら後ろめたいことはないので、むしろ一緒に捜してくれる人ば増えて喜ばしいくらいだ。


 七人となった捜索隊は、早速マリナの実家があるという港町へと向かった。



 港町はとても賑わっていた。

 なんでも、この地に古くから伝わるという海竜へ祈りを捧げる祭りが近いらしい。

 祭りが行われるのはまだ一週間ほど先というが、それでもこの賑わい――なるほど。アストル学園がこの祭りとかぶらないように日程を調整した理由が分かった。これよりも人が増えるというなら、不審人物が紛れ込んでいても的確に判断するのは難しそうだ。


「しかし、メイドひとりのために自ら捜索に乗り出すなんて……ブランシャル王国の貴族はみんなそうなの?」


 捜索途中で、アンネッテが率直な疑問をぶつけてきた。

 ……まあ、普通の感覚じゃないよな。

 でも、これが俺にとって当たり前なんだ。


「マリナは大切な俺のメイドだ。何かトラブルにでも巻き込まれたとなったら、助けてやらないと」

「そうなのね……」


 さすがに腑に落ちないといった感じのアンネッテ。

 これもまた環境の違いによるものか。


 そんなことを考えつつ、町中を捜していくが、さすがにたた闇雲に歩き回っているだけでは手がかりさえつかめない。


「何か、ヒントがあれば……」

「っ! そうにゃ!」


 途方に暮れていると、プリームがポンと手を叩きながら叫ぶ。どうやら、何か思いついたらしい。


「どうした、プリーム」

「実は、マリナが言ってましたにゃ――この町にある広場の噴水がお気に入りで、眺めていると時間を忘れるって!」

「広場の噴水?」


 うーん……「時間を忘れる」と言っていたとはいえ、それはたとえだって可能性が高いよなぁ。マリナはしっかり者だから、その辺はきちんとしているだろうし。


 ただ、他にまったく手がかりがないため、とりあえず俺たちはその広場へとやってくる。

 その広場というのは町の真ん中にある小高い丘の上にあって、ここから海が一望できる絶景のポイントであった。


「なるほど……噴水だけじゃなく、この景色を眺めていたら、確かに時間を忘れてしまいそうだな」


 マリナの言った通りではあったが、肝心のマリナ自身の姿はなかった。

 ――と、その時、


「バレット様!」


 慌てた声で俺を呼んだのはレベッカだった。

 どうやら何かを発見したようで、俺のもとまで駆け寄ってくると手にしたそれを見せる。他のみんなも集まってきてチェックしたそれは――


「髪留め?」

「これはマリナの物で間違いありません。ここに名前も彫ってあります」

「!? ホントだ!?」


 確かに、その髪留めには見覚えがあった。

 マリナの髪留めがこんなところに落ちているということは……ここにマリナがいたことは間違いない。


 一体、ここで何が起きたんだ?

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