第243話 消えたメイドの行方

 行方をくらませたマリナを捜索する俺たちは、ようやくその手がかりを発見する。

 その手がかりとは、広場に落ちていたマリナ愛用の髪留めだ。

 ただ、これだけでは「この場にマリナがいた」という証明にしかならず、今現在彼女がどこにいるのか、その特定は困難――かに思えたが、


「うん?」


 俺はその髪留めを手にした時、何か違和感を覚えた。

 ……なんだ?

 手にしているだけなのに、まるで熱を持ったように感じる。

 これは――


「魔力、か?」


 髪留めには、ほんのわずかだが魔力が込められていた。

 マリナは魔法使いではない。だが、その体内に魔力は宿している。これはマリナに限ったことではなく、誰もが潜在的に抱え込んでいるものなのだ。そして、その魔力は個人によって質が異なる。

 ――つまり、何が言いたいのかというと、


「この髪留めに残っているマリナの魔力を追えば、きっと居所が掴めるはずだ」

「「ほ、ホントですか!?」」


 驚きながらそう尋ねてきたのはレベッカとプリームのふたり。ティーテとラウルは髪留めに魔力が残っていたという情報でなんとなく察することができたのだろうが、それはあくまでも学園で魔力に関する座学を受けて知識を得ていたからだ。


 それにしても……もしかしたら、マリナはそのことを知っていたんじゃないかな。

 だから、髪留めに自分の魔力を込めてこの場に残しておいた。

 俺たちがこの場所を訪れ、連れ去れた場所を特定してくれるはずだと信じて。


「マリナ……」


 髪留めを持つ手に力が入る。

 一刻も早く、マリナを捜しださなければ!


 俺は残っているマリナの魔力を追うため、聖剣を抜く。そして、意識を集中して聖剣に魔力を注いだ。


 その結果、手にしている髪留めから漂うマリナの魔力がゆっくりと北東へ伸び始めた。町を一望できる広場のある場所から、魔力が指し示した場所を確認する。そこにあったのは――


「倉庫?」

「あれは旧倉庫街ですね。百年以上使われ、そのことから老朽化しているところも多く、現在はほとんど使われていないと聞いています」


 レベッカの説明を聞いてピンと来た。

 それってつまり……悪党が隠れ家にするにはもってこいの場所じゃないか。


「あそこを調べてみる必要がありそうだ」

「し、しかし……」


 俺を止めようとするレベッカだが、こちらの様子を見てそれが無駄なことだと察したのだろう。それ以上は何も言わなかった。


「ラウル、君はついてきてくれ」

「もちろんですよ、バレット様!」


 念のため、ラウルにも同行してもらうことにした。

 一方、


「バレット……」


 ティーテは心配そうにこちらを見つめている。

 きっと、心では大丈夫だと分かっているのだろうが、やっぱり不安はあるか。


「大丈夫だよ、ティーテ。俺の聖剣とラウルの魔剣――ふたつの力がひとつになれば、どんなヤツにも負けないさ」

「そうですよ。任せてください。いざとなれば、バレット様はこの僕が命懸けで守りますから!」


 原作のラウルなら絶対口にしないセリフだな。

 まあ、それだけ信用されているということだけど。


「……分かりました。お気をつけて」

「おう!」

「ラウルも、しっかりね」

「心配いらないさ、ユーリカ」


 俺たちはそれぞれの想い人へ語りかける。 

 最後に、レベッカとプリームへふたりと一緒に一旦学園へ戻り、このことを知らせて応援を倉庫街へ呼んで欲しいと告げた。


 これで準備は整った。

 待っていろよ、マリナ!

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