第240話 裏事情

 俺がダンジョンで、そしてラウルが夜の学園で目撃した謎のふたり組。

 とりあえず、俺とラウルはふたりでテシェイラ先生にこのことを報告する。そこから、ランドルフ学園関係者にも伝わって、学園内の警備はより強固なものとなった。こうした学園側の努力もあってか、あれ以降、俺たちは怪しい人物を目撃していない。


 最悪、短期留学を中止するという選択肢もあったのだろうが、両学園が協議をした結果、続行で話がまとまった。

その件について、俺は留学生代表としてテシェイラ先生から事情を聞く。


「今のところ、特に怪しげな魔力などは検知されていない。それが、留学を続行する決定打になったな」

「そうですか……」

「留学期間は残りあと二日だ。うちからウォルターも加勢に来てくれたし、何も心配はいらないさ」

「分かりました」


 今回の短期留学は、単に学園同士の交流会というだけじゃない。

 ブランシャルとサレンシア。

 両国の今後を左右する、壮大なプロジェクトの一端を担っている。

 すでに今年の冬にはランドルフ学園の学生が、アストル学園へ短期留学を行うという話が出ているというし、今後も活発に行われていくだろう。


 だとすれば、そのスタートである今回の留学をそう簡単に取りやめるわけにはいかない。

 政治的な思惑が見え隠れしているが……学生側から言わせてもらうと、普通に楽しいんだよなぁ、留学生活って。

 こっちの学生も親切ないいヤツが多いし、本当に楽しめている。

 きっと、生徒会長を務めているアンネッテの功績が大きいのだろうな。


 ……しかし、こうなると俺にプレッシャーがのしかかるな。

 彼女たちがアストル学園に来るのは冬。

 だが、その前にうちの学園祭がある。

 そっちの運営にも力を入れていかなければならないし、日々の勉学にも励んでいかなくてはならない。もちろん、すべてを俺ひとりがやるわけではなく、生徒会と学園騎士団のみんなにも協力は要請していくつもりだ。



「ふぃ~……疲れたなぁ」

「お疲れ様です、バレット」

「そういうティーテも、疲れたんじゃないか?」

「この学園の空気に慣れてきたみたいで、へっちゃらです」


 住めば都ってことなのかな。

 まあ、俺も疲れているのは気苦労っていうより、肉体的な疲労が大きい。

 原因はここでの剣術鍛錬にあった。

 俺の持つ聖剣や、ラウルの魔剣はランドルフ学園で剣士を目指している者たちの関心を集めることとなり、模擬試合を頼まれることが多かった。


 鍛錬の相手を申し込まれるのは、嫌じゃない。

 彼らは本当に熱心だし、こっちも鍛錬になるからお互い切磋琢磨して強くなれる。


 ――ただ、ここへ来てさすがに疲労がピークに達した感がある。


「バレット様、ティーテ様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう、レベッカ」


 普段、こういった役割はマリナがしてくれるのだが、今は実家に帰省中のため、レベッカとプリームが協力をして身の回りの世話をしてくれる。


「でも、いよいよ明日が最終日なんですよね」

「あぁ……あれから何事もなく、ここまで来られてよかったよ」

「マリナも明日の昼にはこちらへ戻ってくるそうです」

「そうか」

「久しぶりに家族と過ごせてよかったって言ってましたよ!」

「それならよかったよ」


 休みなんてほとんどない仕事だからなぁ、メイドって。

 それから、俺はレベッカの淹れてくれたお茶を飲みながら、ティーテと消灯時間までのんびり話をする。



 そして――激動の最終日を迎えた。

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