第238話 マリナの悩み

 翌日。

 

 前日に言った通り、マリナには今日一日を里帰りの日にしてもらうこととした。

 仕事柄、両親に会える時には会ってしっかり顔を見せないとな。


「…………」


 ティーテと一緒に見送ろうとしたのだが、本人はなんとも言えない微妙な表情をしている。


「何か心配事でもあるのか?」

「あっ、い、いえ、その……」


 言いにくそうにしているマリナだが、気になっていることがあるならここで吐き出してもらった方がいい。というわけで、尋ねて見たのだが、


「前に手紙をもらったんですが、『結婚の予定はないのか?』という内容で埋め尽くされていたことを思いだして……」


 憂鬱そうな表情で語るマリナ。

 け、結婚か……思わずティーテの方へ顔を向けると、あちらも同じような考えだったらしくバッチリ目が合った。

 気恥ずかしくなって視線を逸らすと、


「そういう相手がいれば、両親も喜ぶんでしょうけどね」


 と、いつになくやさぐれた感じで言い放つ。

 こう言っては失礼なんだろうけど……マリナ、結婚願望あったんだな。メイドという仕事の内容を考えると、なかなか出会いとかなさそうだし……こちらで紹介するっていうのもありかなぁって思ったけど、一斉に寿退職されてもそれはそれで困るなぁ。


「結婚かぁ……私はまだ考えられないかなぁ」

「まあ、私やマリナはそろそろ意識をする年齢ですね」


 プリームはまったく興味なさそうだけど、レベッカはそうでもなさそうだ。彼女は優秀だけど、もし本気で結婚を望むのであれば、相手探しをうちで手伝おうかな。


 別れ際にいろいろとあったが、最後は笑顔でマリナを送り出す。


「さて、しばらくはふたりで仕事をこなすことになりますから、いつも以上にしっかりお願いしますよ、プリーム」

「にゃっ! 任せて!」


 マリナが臨時帰省中でも、このふたりがいてくれるのはとても頼もしい。持つべきは優秀なメイドさんだな。……プリームの場合は空回りしなければいいけどね。



 気合の入ったふたりのメイドに見送られて、俺たちも学園に。 

 昨日、ダンジョンに不審者が潜り込んでいたが――別段、変わったところは見られなかった。


 もしかしたら、ランドルフ学園側の教員たちがすでに犯人を拘束しているかもしれない。テシェイラ先生が言っていたけど、ここの先生たちもみんな優秀らしいからな。


 俺とティーテはジャーヴィスやラウルたちと合流し、昨日案内されたある教室へと向かっていた。

 本日は座学メインの授業となる予定だ。


「座学か……」

「アンドレイ先輩、お願いですから大きないびきをかいて授業を妨害しないでくださいよ?」

「失礼だな、マデリーン。俺は寝る時にいびきなんてかかないぞ。人を見た目のイメージだけで語るのはよくないな」

「そこは寝るってところを否定しなさいよ」

「あはは……」


 アンドレイ、マデリーン、クライネ、そしてユーリカの四人はいつも通り。

 ただ――ラウルだけ顔色がおかしい。


「ラウル、何かあったのか?」

「い、いえ、なんでもないですよ」


 ……それで誤魔化したつもりなのか、ラウル。

 どうやら、何かあったようだな。

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