第237話 ひと騒動終わって
思わぬトラブルに見舞われたが、なんとか俺たちは無事にダンジョンを抜けだし、学園へと戻ってくることができた。
ティーテや仲間たちには多大な心配をかけてしまって申し訳ない――と、思う反面、やっぱり気になるのは俺たちがダンジョンで遭遇した怪しい男たちの正体について。
他国の留学生を巻き込んだ事件となれば、当然、騎士団が出張ってくる。騎士団が出張ってくるということは、その全容は機密扱いとなって一般人の目には触れにくくなる。つまり、俺たちが真相を知る機会は限りなくゼロに近いと言ってよかった。
……気になる。
原作【最弱聖剣士の成り上がり】では、主人公ラウルの過去編――学生時代はサラッと流されてしまうから、このような事件に関する流れは一切分からない。
なんとかしたいという気持ちが出る一方で、ここは俺たちの住むブランシャル王国ではない。あっちでは自由に動けたが、こちらではそうもいかないからな。
結局のところ、今の俺にやれることはほとんど何もなかったのである。
その日の授業後。
「ふぅ……」
夕食の前に自室へ戻ると、
「「「バレット様ぁ!!」」」
マリナ、プリーム、レベッカのメイド三人衆が押し寄せてきた。
「な、何っ!? 何があったの!?」
「それを聞きたいのはこちらですよ!」
代表してマリナが訴える。
どうやら、彼女たちは俺とマデリーン、そしてアンネッテ会長が何者かに襲われたという報告を受けていたようだ。本来は遭遇しただけで、戦闘には発展していないのだが、伝達の過程で話に余計な尾ひれがついたみたいだな。
「心配ないよ。俺はこの通り、ピンピンしているからさ」
「よ、よかったにゃ~……」
「えぇ……本当に……」
プリームとレベッカは安堵すると同時に脱力してその場にへたり込む。マリナも、目尻に涙をためて俺の無事を喜んでいた。
その時、マリナが思わぬ言葉を口にする。
「私の卒業した学園でバレット様の身に何かあったら……」
「えっ? マリナってこの学園の卒業生なの?」
「はい。あれ? 言っていませんでしたか?」
「初耳だよ!」
ちょ、ちょっと待てよ。
ということは――
「マリナって……もしかして実はお嬢様?」
「ち、違いますよ。確かにこの学園は貴族の方々が大勢通われていますが、メイドや執事を育成する目的のクラスもあるんです」
そんなのがあるのか。
「ちなみに、マリナのお父上はサレンシア王国で漁師をしているそうです」
「お母さんは港の市場で働いているんですよ!」
レベッカとプリームから追加情報が出た。
ということは……
「ご両親は今もこの国に?」
「は、はい。元気に暮らしていると思います」
「そうか。――よし、なら、明日マリナはメイドの仕事をお休みしてご両親に顔を見せてくるんだ」
「えっ!?」
マリナは驚いて目を丸くしている。
一方、レベッカとプリームは俺に提案を聞いて拍手していた。
「さすがです、バレット様」
「マリナのお母さんとお父さんも喜びますよ!」
「で、でも」
「仕事なら大丈夫。私たちだけでなんとかなりますから」
「アストル学園にいる時より仕事量は減っているしね!」
「ふたりとも……」
マリナはまず俺に深く頭を下げてお礼を言うと、レベッカとプリームにも感謝の言葉を贈った。
親孝行は大事だからな。
あと、レベッカやプリームにも、いずれ理由をつけて休んでもらわないとね。
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