第234話 ダンジョンでトラブル

「あれ? 今何か揺れませんでした?」


 マデリーンも横揺れに気づいたようだが――その時にはすでに遅かった。

 突如鳴り響く轟音。

 そして、さらに激しさを増す横揺れ。


「なっ――」


 その場から退避しようとした俺たちであったが……それは叶わなかった。

 なぜなら、突然足元が崩れ去り、それによって生じたい大きな空洞へと真っ逆さまに落下していったのだ。


 俺とマデリーンとアンネッテの三人は、底の見えない空洞を落ちていく。

 いつ地面が見えて激突するのか――そんな恐怖が俺たちを襲った。


「くっ!?」


 このままではまずい。

 そう感じた俺は、聖剣へ魔力を込める。

 当然、魔法を発動させためだ。

 使うのは重力魔法。

 扱いが難しいらしく、聖剣でどこまで制御できるかは分からないが……やるしかない。このまま地面と衝突して死ぬよりは、最後まで抗ってみせる。ティーテを悲しませるわけにはいかないからな。


「はあっ!」


 重力魔法はうまく発動してくれた。

 そのおかげで落下スピードはずっと遅くなり、ゆっくりと下降していく。

 本来ならば上昇することもできるらしいが……何せまだ会得して間もないため、そこまでの応用はきかない。今後のためにも、テシェイラ先生に指導してもらわないとな。


「こ、これは……」

「さすがです、バレット先輩! こういう時にこそ頼りになる、まさに真の勇者ですよ!」

「騒ぎすぎだ」


 聖剣の生みだす魔法を初めて見るアンネッテは困惑しているようだったが、一方で学園祭などを通し、俺の魔法を何度も見ているマデリーンは感謝の言葉を述べる。


 それにしても――


「かなり深いな……」


 重力魔法のおかげで落下の心配がなくなったため、冷静に周囲を確認することができた。


「随分と大きな穴だったが、前々から確認されていなかったのか?」

「え、えぇ、ダンジョンにこのような場所があったなんて初めて知りました」


 学園の施設として運用されているわけだから、きっと安全面については徹底した管理が行われているはずだ。アストル学園のように、平民だけでなく貴族出身の学生も結構な数いるみたいだからな。


 だが、それにも関わらずこうして問題は起きた。

 正直に言えば、俺が重力魔法を使えなかったら三人とも死んでいたかもしれない。下手をしたら、ブランシャル王国とサレンシア王国の間で国際問題に発展してしまうかも。


「ごめんなさい、ふたりとも……」

「ア、アンネッテ会長が謝ることじゃないですよ」

「その通りです。――っと、底が見えてきましたよ」


 とりあえず、あそこに下りて救助を待つとするか。

 あれだけ大きな揺れと轟音……今頃、上ではパニックになっているだろうが、そのうち、俺たちがいないことに気づいて捜し始めるだろう。そうすれば、探知魔法ですぐに居場所が特定されるはずだ。


「ジタバタしてもしょうがないですからね。ここでのんびり待ちましょう」

「それがいいな」

「あ、あなた方は慣れているんですか、こういう状況に」

「まあ、それなりの修羅場はくぐってきましたよ」


 得意げに語るマデリーンだが……そうでもないだろう。

 ともかく、さっきの横揺れの原因について、少し調べてみることにするか。

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