第231話 楽しい夜

「ドラゴン……」


 そういえば、原作である【最弱聖剣士の成り上がり】では、ラウルがハーレムメンバーたちとドラゴンを目指す章があったな。


「これは海竜の像ですよ」


 俺がドラゴンの像を眺めていると、アンネッテ会長が解説をしてくれた。


「古い言い伝えなんですよ。海竜が現れる時、大きな災いが起こる――それを恐れて、このように像を作り、海竜の怒りを鎮めようとしたのです」

「な、なるほど……」


 迷信ってわけか。

 ……けど、あながちおとぎ話ってわけじゃなさそうだ。

 何せ、普通に魔法とかモンスターとかいるわけだからな、こっちの世界は。ドラゴンの一匹くらいうろついていたってなんら不思議じゃないし、今さら驚かない。



 それからも、俺たちはアンネッテ会長やマルゼ副会長の案内で学園を見て回る。

 時間が経てば、自然と俺たちの仲も良くなり、同い年なんだからという理由で敬語からタメ口へと移行。すっかり馴染むことができた。



 夜になると、食堂でディナーをいただくのだが、今日は特別メニューらしく、他の学生たちと一緒に食べることに。

 テーブルに並べられた数々の料理は、サレンシア王国が海から近いということもあって海鮮が中心であった。香辛料なども独特のものが使われているようで、どれも俺たちの暮らすブランシャル王国では見かけない調理がされたものばかりだ。

 

 恐らく、別室で同じように夕食をいただいているメイド三人衆も、この料理には驚いているんじゃないかな。特に三人の中でもっとも料理が得意であるマリナは目の色を変えてチェックしているに違いない。


 その味だが、


「うっま!」


 このひと言にすべての評価が集約されている。

 刺激的な後味は、香辛料によるものか?

 何より魚自身の味もいい。

 しばらくするとカニ、エビ、貝を使った料理も出てきて、もう目移りしてしまう。


「肉もいいが、魚もいいな!」

「うん! どれもおいしいよ!」


 学園騎士団のメンバーであるアンドレイとラウルはがむしゃらに食らいついている。一応、最低限のマナーは守れているようなのでよしとしよう。

 一方、女性陣は落ち着いていた。

 さすがに男子ふたりのようながっつき具合ではないが……よく見ると、手の動きがめっちゃ速い。全体的な動きを抑えて優雅に見せつつ、食事量としてはラウルたちとあまり変わらないんじゃないか? 特にクライネとジャーヴィス。


 一方、


「おいしいですね、バレット」


 俺の横に座るティーテは実に控え目。

 元々、あまりたくさん食べる方じゃないものな。マデリーンやユーリカもそっちタイプなので、「うまい」とは言いつつ、クライネやジャーヴィスに比べると量は抑え気味だ。


 楽しいのは食事だけじゃない。

 他校の学生との交流も大いに盛り上がった。

 食後にはデザートだけでなく、一部の学生が行っているという、古くから受け継がれてきた伝統的なダンスを披露してくれた。まさに至れり尽くせりって感じだ。


 食事が終わると、俺たちはそれぞれの部屋へと案内された。

 ここでしっかり体を休め、明日からの授業へ挑む。


 確か、まずは模擬戦をやるっていっていたな。

 ……うん。

 楽しみで今日はなかなか寝付けそうにないぞ。

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