第229話 サレンシア王国へ
ランドルフ学園への短期留学のため、サレンシア王国に向かう当日。
天気は晴れ。
程よい夏の風が心地よい。
湿度がない分、カラッとしていて汗がにじみ出てこないっていうのが素晴らしいよな、この国は。
移動方法は馬車となった。
まあ、隣国だから距離自体はそれほどないし、位置関係でいうと、去年の夏休み前にバイトした例の海岸から近い。
ちなみに、今回は国外への移動ということで、これまで以上に手続きが面倒だったらしい。
特に厄介だったのがラウルとユーリカのふたり。
付き合いの長い俺たちは、両者の人間性を理解している。
しかし、迎え入れる側からすると、出生がハッキリしないふたりに入局許可を出すことへ難色を示す者もいたという裏事情をこっそり学園長から聞いている。
特にラウルへの風当たりが強いらしい。
どういった経緯かは不明だが、どうやら一部の関係者がラウルの魔剣暴走事件のことを知っていたらしい。
とはいえ、それはもう一年前の話。
今のラウルはクラウスさんの特訓の成果もあって魔剣に振り回されることはない。しっかりと使いこなし、俺たちにとっては欠かせない存在となるまで成長した。
そんなわけだから、こちらでしっかりフォローをしていかないと。
「な、なんだか緊張してきましたね」
馬車の向かい側に座るティーテは、笑みを浮かべつつも緊張した面持ちが隠しきれていなかった。
留学生という立場ではあるが、まったく知らない土地での生活……学園での寮生活とはわけが違うからな。そりゃ緊張もするだろう。
「大丈夫だよ、ティーテ。こういうのは慣れの問題さ。しばらくすれば、いつも通りの感じで過ごせるようになるよ」
「な、なるほど……凄いですね、バレットは」
「えっ?」
「私と同じで国を出ての生活は初めてのはずなのに、とても落ち着いています」
「そ、そうかな?」
これについては前世の記憶による部分が大きい。
よその土地でひとり暮らしなんて、もう慣れっこだったからな。
しばらく進むと、検問所にたどり着く。
ここで入国のための手続きを行うようで、しばらく足止めを食らうと説明を受けた。
かれこれ二時間以上も馬車にいたこともあり、俺たちは外へ出て新鮮な空気を吸うことにした。それは、他の馬車に乗っているみんなも同じ考えだったらしく、結局全員が外で顔を合わせることに。
そこは小高い丘の上にあるため、サレンシア王国自慢の美しい海を一望できた。
「わあっ!」
テンションの上がるティーテ。
それは俺を含めた他の面々も同様だった。
しかし……昨年のバイトでクラーケン討伐を行った場所とそれほど離れていないのに、こうも違ってみるものなのか。もはや感動すら覚える絶景だ。
「バレット、あそこを見てくれ」
美しい景色に見入っていると、ジャーヴィスがとある場所を指さしてそう告げる。
そこにあったのは、
「あれは……学園?」
建物の造りからして、恐らくそうだろう。
あそこが、俺たちの短期留学先であるランドルフ学園か。
学園郷と呼ばれるアストル学園に比べると、規模は小さいと言えるが……なかなか立派な校舎じゃないか。
果たして、あの学園では何が待ち受けているのか――不安と期待が入り混じる中、俺たちはテシェイラ先生に呼ばれ、馬車へと戻るのだった。
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