第228話 振り返って
やや不完全燃焼に終わった、俺とラウルの再戦。
あまりにも激しいぶつかり合いだったため、危うく演習場を再起不能にするところだった。
「はぁ~……なんだか今日はいつも以上に疲れたな」
自室に戻り、椅子へ座った途端に漏れでる愚痴。
確かに疲れてはいるが……心地の良い疲労感だった。
「今すぐにお茶を淹れますね」
そんな俺の様子を見て、マリナがクスクスと笑いながらお茶の準備に取りかかった。
すると、そこへプリームとレベッカがやってくる。
「バレット様! 旅の準備はバッチリですにゃ!」
「? 旅の準備?」
「ランドルフ学園への短期留学の件です」
「あっ」
そうだった。
ラウルのバトルに集中するあまり、すっかり失念していた。
サレンシア王立ランドルフ学園。
今年の夏休みは、ここへ二週間の短期留学が予定されている。
というわけで、去年よりもずっと忙しくなりそうだと思っていたが……実家へ帰省するよりも先に、まずは留学するんだったな。
そのランドルフ学園があるサレンシア王国は海沿いに栄えた国で、昔から漁業や海運業が盛んであった。最近では美しい砂浜を押しだした観光業にも力を入れていると聞く。
そういった場所なので、留学と言いつつ、夏の海で休みをエンジョイしようという名目もあった。これは舞踏会の運営を頑張ってくれた生徒会及び学園騎士団をねぎらいたいという学園長の意向も組み込まれていたのだ。
「でも、ランドルフ学園か……どんなところなんだろう」
「話に聞く限りでは、このアストル学園と雰囲気がよく似ているそうですよ?」
「なるほど……」
雰囲気がよく似ている……随分とぼんやりした表現だが、これまでろくに交流がなかったんだから仕方がないか。国同士は仲が良いらしいのに、向こうの学園に関しては情報が少なく、謎だらけときている。
……謎といえば、未だに顔を合わせていない「あの子」も気になる。
その名はピラール・アゼヴェート。
原作でラウルのハーレム要員だった新入生だ。
入学式でその名を確認した時から、舞踏会の時もそれとなく気にかけていた――しかし、未だに顔は分からない。まあ、これまでのキャラクターと違い、原作での登場が中盤ということで、一巻での出番がなく、そのため、イラスト化もされていないのだ。
一応、容姿のヒントは出ているので、それを頼りに捜しているのだが……まだ見つかっていない。
ここで問題になってくるがラウルとピラールの関係――だが、すでにラウルはユーリカと結ばれており、今さら他の女子に目移りするとは考えづらい。
現に、これまで登場した原作のハーレム要員は、みんな別の相手を見つけ、それぞれ幸せに暮らしている。
そういう意味では、そこまで躍起になってピラールを捜さなくてもいいのかな。
現に、これまでラウルとピラールが接触した形跡はないし。
「どうかしましたか、バレット様」
「! あ、い、いや、なんでもない――よ?」
お茶を持ってきてくれたマリナ。
だが、気になったのはその背後にある光景。
なんだ……あの荷物は。
「マリナ、あれは……」
「えっ? ――ああ、あれは私たちの荷物です」
「私たち?」
「バレット様がランドルフ学園に行くなら、メイドである私たちもついていきますのにゃ!」
「そういうことです」
なるほど。
それはそうか。
……しかし、荷物多くないか?
もしかして――
「水着とか入ってる?」
「「「!?」」」
何気なく口にした言葉に、メイド三人衆は大きく動揺。
……まあ、いいか。
いつも頑張ってくれているんだし。
三人が向こうで楽しめる時間を作るとしよう。
さまざまな思惑が渦巻く中――いよいよ留学の日を迎えるのだった。
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