第222話 試験抽選会

 突如持ち上がった、隣国サレンシアにあるランドルフ学園との交流会。


 俺たちの住むブランシャル王国と、今回お世話になるサレンシア王国は付き合いが長い。観光資源が豊富なサレンシアには、ブランシャル王国の貴族たちにも人気なスポット。

一方、こちらからは鉱産資源を多く輸出しており、お互いの国が持ちつ持たれつという関係であった。

 むしろ、これまで交流がなかったということの方に驚きを感じる。


 原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では、サレンシア王国に対して何も言及されてはいなかったと記憶している。

 そもそも、バレットの学生時代――いや、この場合、原作主人公であるラウルの学生時代になるのか。ともかく、原作は学園卒業後の世界からスタートしているので、この辺の内容は回想編を含め、ダイジェストでサラッと流されることがほとんどであった。

 いや、もしかしたら、卒業後がメインの本編でも出てこないんじゃないかな。最新話だと別大陸に行って、大きな地底湖のあるダンジョンに住み着いていると噂される水竜の討伐に乗りだしたはず。


 ……まあ、今さら原作の流れを沿ったところで意味はないんだよな。

 この世界は俺がだいぶ改変しちゃったわけだし。


 といったわけで、今年の夏休みは一度実家に戻り、両親へこれまでの報告をした後で仲間たちとサレンシアで過ごすことになった。




――その前に、片付けなければならない問題がある。

そう。

定期試験だ。


 夏休みを迎えるための最後の試練。

 すべての学生へ平等に降り注ぐそれを突破しなければ、ランドルフ学園との交流会(という名の半ばバカンス)に参加できないのだ。


 とはいっても、生徒会の面々は優秀なので問題はない。

 しかし、俺にはそれ以外に気になる点があったのだ。


 それは――《この世界を知る者》について。


 こいつが本当に厄介だ。

 一体何が目的なのか――何もかもが不透明な、危うい存在。

 ヤツは冒険者という立場を貫くつもりらしいが……いつ牙をむいてくるか分からない。俺と同じように、原作を知っている以上、警戒を怠ってはならないだろう。


 姿の見えない敵に脅威を覚えるというのは難儀なことだが、それを気にしつつも、今はしっかりと目の前の課題に挑まなければならない。


 今回の試験には筆記の他に実戦形式のものある。

 最高学年ということで、これまで培ってきた技術や知識を生かした戦い――言ってみれば、学年全体で武闘大会みたいなことをやろうってわけだ。


 本日はその組み合わせ抽選会が講堂で行われる。

 この戦いは教師が完全監修し、安全に配慮されて行われるため、全学生が参加の対象となっていた。

 つまり、ティーテも受けるわけだ。


「き、緊張します……」


 抽選会が始まると、思わずティーテの本音が漏れる。


「大丈夫だよ。先生たちが防御魔法で守ってくれるから、怪我の心配はない。これまでのすべてをぶつけてやればいいんだ」

「バレット……」


 俺が言葉をかけると、ティーテは安心したように呟く。

 そして、とうとうティーテの対戦相手が決まった。


【ティーテ・エーレンヴェルクVSクライネ・フォズロード】


 ティーテの対戦相手は、同じ生徒会メンバーであるクライネだった。


「相手はクライネか……手強いぞ」

「は、はい」


 とはいえ、よく知っている友人同士である分、まだやりやすさはあるかもしれない。

 そう思っていると、俺の対戦相手も決まった。


【バレット・アルバースVSラウル・ローレンツ】


「! ラ、ラウルが相手か……」


 これも因縁なのか。

 去年、聖騎士クラウスさんに弟子入りさせるために実戦形式の訓練に挑んだが、まさかここでもラウルと当たるとは。

 呆然としている俺のもとへ、そのラウルがやってきた。


「バレット様! 今度は負けませんよ!」


 会って早々に宣戦布告。

 ならば、俺もそれに応えるまでだ。


「ああ、よろしくな!」

「はい!」


 こうして、俺とラウルは再び剣を交えることになったのだった。

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