第221話 迫る夏休み

 今年の学園舞踏会。

はたから見れば、特にこれといったトラブルもなく、平穏無事に終わった。

 学生だけじゃなく、教職員や警備にあたっていた騎士たちからも好評で、来年はぜひ来賓を増やし、例年通りの規模で開催しようということになった。

 ……ただ、俺からすれば、とんでもない波乱が起きた舞踏会であった。


《この世界を知る者》――彼女は、自らを傍観者であるかのように表現していた。

 果たして、それを鵜呑みにしていいのかどうか……確かに、あの会話の中で敵意のようなものは感じなかった。しかし、姿を見せなかったところに疑問が残る。


 そして……ヤツは近いうちにまた会うというような発言をしている。

 果たして、それは何を意味しているのか。

 こうして振り返ると、やっぱり警戒はしておくべきだな。




 学園舞踏会が終わると、次に学生たちを待ち構えているのは学期末試験。

 それが終われば長期の夏季休校となるため、俺たちにとっては最後の正念場って感じの扱いだ。


 まあ、うちの生徒会や学園騎士団で成績不振を原因に補習を受けるようなヤツはいない。その点は安心だろう。

 ただひとつ……試験を前に、俺たちは学園長室へと呼びだされていた。


「舞踏会も終わって間もないというのに、なんのようでしょうか?」

「うーん……皆目見当もつかない。ジャーヴィスはどうだ?」

「同じく。ラウルは何か聞いているかい?」

「僕も詳細は知らされていないんです」


 ラウルだけじゃなく、アンドレイ、クライネ、ユーリカも事情を知らされていないようだ。

 正直言って、あまりいい予感はしないが……とにかく、詳しい話を聞くために、俺たちは揃って学園長室を訪れた。


「あら、ちょうどみんな揃っているようね」


 窓際にたたずむアビゲイル学園長は、俺たちの入室を確認すると「コホン」とわざとらしく咳払いをしてから話を始めた。


「あなたたちを呼んだのは、夏休みの予定についてよ」

「夏休みの予定?」


 俺たちは一斉に顔を見合わせる。

 夏休みの予定って……どういうことだ?


「一体、それを確認して何をするんですか?」

「実は……今朝、これが届いたの」


 そう言って、学園長は俺に一枚の紙を手渡す。その中身を確認するため、みんなが俺のもとへと集まってきた。

 手紙に記された内容は――


「交流会?」


 アストル学園と別の学園による交流会をしないかという提案状であった。

 この申し出をしてきたは、隣国のサレンシア王国にある王立ランドルフ学園の学園長。


「ランドルフ学園」

「何度か足を運んだことがあるけど、いい学園よ。全体的な空気は、うちとそれほど変わらないかしらね」


 アビゲイル学園長はよく知っているってわけか。

 ――けど、


「なぜ今になって交流を?」


 さすがはティーテ。

 俺とまったく同じところを疑問に感じたらしい。

 ここブランシャル王国と、ランドルフ学園のあるサレンシアは、昔から仲が悪いというわけではない。むしろ、今まで学生間の交流がなかったこと自体がちょっと驚きだ。


手紙の続きには夏季休校の間、ランドルフ学園に短期留学してみないかという案内が書かれていた。


「実際に授業をするというわけではなく、あくまでも学生間の交流がメインになっているみたいなの。うちからはあなたたちを推薦しようと思って、今日はその意思確認を行うために呼んだのよ」

「は、はあ」

「とりあえず、試験的に実施してみて、その後、来年度から正式に取り入れようか協議するみたい」

 

 そう説明したと、学園長はこう付け足した。


「知っている子もいると思うけど、サレンシア王国は海の近くにあって、観光資源も豊富なリゾート地なの。宿泊先に指定されている宿は、観光客の間で評判のところだそうよ」


 ……なるほど。

 そういうことか。


 学園長の意図を汲み取った俺たちは一度顔を見合わせる。

 全員が頷いたところで、俺は学園長に告げた。


「そのお話――引き受けさせていただきます」


 どうやら、今年は例年より騒がしそうな夏休みとなりそうだ。

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