第220話 正体不明の傍観者
「おまえの目的は何なんだ!」
姿を見せず、こちらを挑発するような言動を繰り返す《この世界を知る者》――その正体を暴くため、俺は夜の闇に向かって叫んだ。
「まあ、そうカッカしないでも」
相変わらずの飄々とした態度で受け流される。
だが、このまま引き下がるわけにはいかない。
もし――ヤツがこちら側の誰かに危害を加えようとしているなら、俺は全力でそれを阻止する。その覚悟をもって、聖剣を抜いたのだ。
闇夜に潜む《この世界を知る者》は、臨戦態勢をとる俺に対し、少し困ったような感じで話し始めた。
「警戒をするなという方が無理な話か。……でも、これだけは言っておくよ。君にとって私は敵でも味方でもない――今のところは、ね」
「何っ?」
「私はあなたのようにこの世界を変えていこうなんて気持ちはないし、むしろあなたを応援しているのよ」
またしても含みを持たせた口ぶりだった。
敵でも味方でもない。
素直にこの言葉を受け取るとするなら、今現在に関して、ヤツは完全な第三者という立場になる。俺と同じ転生者であるのは間違いなさそうだが……どうやら、この世界の話へ直接かかわるつもりはないらしい。
となると、原作【最弱聖剣士の成り上がり】において、主要キャラクターではないということだろうか。
そもそも、俺は自分が転生したバレット・アルバースの未来を知っている。
最近になって多少不穏な動きを見せているが、「ざまぁ要員」という役柄上、ろくな最後を迎えないだろう。
だから、俺は変わろうとした。
最低最悪の未来を変えること――それは俺だけじゃなく、原作では主人公ラウルのハーレム要員となり、すっかり影が薄くなってしまったティーテと幸せな生活を送るためだ。
この一年……俺とティーテの絆は深く、強固なものとなった。
原作とは大きく変わりつつある未來。
ヤツは、今のところ俺に干渉してくるつもりはないというが……それもいつ翻してくるかわからない。大体、姿も見せないで一方的に話をしてくるヤツを信用できるか。
「……疑われているようね」
向こうにも、俺の疑念は伝わっているようだ。
「少しでも信用されたいと思うなら、まず姿を見せて名を名乗ったらどうだ?」
「それはもうちょっと後の楽しみに取っておきましょう」
ここでもはぐらかされる。
どうあっても、この場に顔を出す気はないらしい。
「ちょっと虫が良すぎるんじゃないか?」
「まあまあ――近いうちに、また必ず君を訪ねてくるから、その時まで……どうかこの世界で元気に暮らしていてね。先走って殉職なんてことにならないでよ」
「じゅ、殉職? どういう意味だ!」
俺は叫ぶも、すでにヤツの気配は消えていた。
「くそっ!」
結局、肝心なことは何も分からずじまい、か。
一応、現段階では、俺たちに敵意を持っているようではなかったが……それも本当かどうか怪しいな。今もどこかで、俺の寝首をかこうと狙っているかもしれない。
その時、夜のしじまを切り裂くように鐘の音が鳴り響いた。
舞踏会が終わった合図だ。
「……戻らないと」
こうして、合成魔獣の襲撃こそなかったが、なんとも言えない謎を残したまま、学園最後の舞踏会は幕を閉じた。
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