第219話 夜の森で
舞踏会は大きな盛り上がりを見せた。
「去年なら、そろそろ合成魔獣が乗り込んでくるんだけど」
今年はその仕掛人だったレクルスト家とハルマン家はいない。それでも……何かが来るんじゃないかと不安になってくるな。
現在、ティーテはクライネやジャーヴィスたちと何やら談笑中。
俺は俺で、さっきまでラウルやアンドレイと男子トークで盛り上がっていたのだが、見回りの時間になったことでふたりは会場をあとにした。
会場周辺の警備は本職の王国騎士団が守っているため、心配する必要はない。
けど、念のため、軽く見回りしてこようという話になり、ラウルとアンドレイが立候補したのだ。
ふたりを見届けた後、俺はティーテたちに合流しようと歩きだした――と、その時、何やら視線を感じて振り返った。
そこに立っていたのはひとりの女子学生。
初めて見る子だな――そう思っていたのだが、なぜかその女子学生は俺と目が合うとニコッと微笑んだ。
その笑顔が……妙に気になった。
なんていうか、初めて見たはずなのにそうじゃないような……既視感というべきか。
戸惑っていると、その女子学生は人だかりをすり抜けて外へと出ていったようだ。
「…………」
心がざわついて止まらない。
もしかしたら――彼女はこれまで何度か接触を試みたが、ことごとく叶わなかった《この世界を知る者》ではないのか。浮かんでくるのはそのことばかりであった。
俺は彼女を追いかけて外へと出る。
そこはちょっとした森になっていて、光源が月明かりのみということもあって暗く、不気味な雰囲気を醸しだしている。
「くそっ……どこへ行ったんだ?」
視界が悪い中、必死になって森の中を探し回る。
ふと気がつくと、不自然に傷ついたり、凄まじい力でなぎ倒された木々がある場所へとたどり着いた。
ここは――
「合成魔獣と戦った場所?」
一年前。
舞踏会の会場を襲撃しようとした合成魔獣が現れた場所であった。
偶然か。
それとも必然か。
あの子が俺をここへ導いたっていうのか?
しかし……一体何のために?
「遅かったね、バレット・アルバース」
困惑していると、どこからともなく声が聞こえてきた。
それは間違いなく――《この世界を知る者》の声。
「ど、どこにいるんだ! 姿を表せ!」
たまらず叫んだ。
しかし、その訴えは届かない。
闇夜に隠れ、顔を見せないまま《この世界を知る者》は語りかけてくる。
「あれからもう一年になるんだねぇ。時が経つのは早いなぁ」
「……どういうつもりだ?」
「うん? 何が?」
「わざわざ俺を誘いだすようなマネをして……目的は何なんだ!」
憤りを表しつつ、俺は密かに聖剣へ魔力を込めて周囲を探っていた。具体的な人物像を把握できなくても、せめて居場所だけでもつきとめることができれば突破口を開けるかもしれないと考えたからだ。
――しかし、
「魔力を探知しようとしても無駄だよ」
《この世界を知る者》には俺の狙いが筒抜けだった。
その言葉通り、俺はヤツの居場所をまったく特定できなかった。
……一体、ヤツは何者で、なぜ今回俺に接触してきたのか。
この機にすべての謎を解き明かしてやる。
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