第218話 二度目の学園舞踏会

 バレット・アルバースとなって迎える二度目の舞踏会。

 去年はただの参加者だったけど、今年は生徒会長としてこの行事を運営する立場にある。

 だが、前生徒会長であるレイナ姉さんが運営した去年の舞踏会に比べると、今年は比較的楽な方だった。


 昨年起きた、合成魔獣襲撃事件。

 事前に森の中で倒せたため、直接的な被害こそなかったものの、一歩間違っていたらとんでもない大事件へ発展するところだった。


 裏で暗躍していたレクルスト家とハルマン家はいなくなったが、それでも似たような事件が起きてはいけないと、今年は来賓の数を減らし、王国騎士団による厳戒態勢の中で行われることとなった。


 一時は中止の動きもあったようだが、さすがにそれでは学生が可哀想だという騎士団長の意向もあり、なんとか実現できたのだ。



 夜になると、華やかなダンスホールに学生たちが詰めかける。

 特に女子はこの日のために選び抜いたドレスを着用し、パートナーとなる男子にエスコートされながら入場している者が多い。

 この学園には貴族も多いことから、俺やティーテのように婚約関係にある学生も結構いるからな。そのつながりか、或いはこの学園で出会って恋仲に発展したってケースもある。いずれにせよ、男女仲はいい方だ。


「いい賑わいだな」

「そうですね」


 俺はティーテとともに生徒会専用に設けられた控室を出ると、階段の踊り場からホールの様子を見て満足そうにつぶやいた。

 ……去年のレイナ姉さんも、こんな気持ちだったのかな。


 学生たちの様子を見ていると、そこへアビゲイル学園長がやってきた。その背後には警備を担当してくれる王国騎士の姿もある。


「ほら、あなたたちも楽しんでいらっしゃい」

「えっ? で、でも……」


 俺とティーテは顔を見合わせる。

 確かにこの時間は基本的にフリーだ。

 しかし、去年の騒動を考えると、俺たちだけでも気を引き締めておかなければいけないと考えていたのだが、


「こらこら、なんのために王国騎士団が出張ってきたと思っているの? あなたたちにも舞踏会を楽しんでもらうためでしょ?」

「あっ」


 そうだった。

 ハッとした表情を浮かべると、アビゲイル学園長の後ろにいた騎士が「行ってきなさい」と優しく声をかけてくれる。


「あ、ありがとうございます!」


 俺たちは深々と頭を下げると、階段を一気に駆け抜ける。

 そして、


「ティーテ……一緒に踊ってくれるかい?」

「もちろん」


 ティーテの手を取り、音楽に合わせて踊り始める。

 去年は本当にひどかった……いや、バレットの記憶があるから踊り自体に苦労させられたというよりも、すぐ近くにティーテを感じられるこの距離感に戸惑ったのだ。

 しかし、今は純粋にこの時間を楽しめている。

 それだけ、一年の間に俺とティーテの仲が深まったってことだろう。

 去年まではまだどこかお互い遠慮があったし。

 気がつくと、他の生徒会の面々もダンスを楽しんでいた。

 アンドレイはジャーヴィスを誘い、マデリーンも、緊張している男子学生に誘われて笑顔を浮かべている。あれは満更でもなさそうだな。ラウルもユーリカと楽しんでいるし、クライネはメリアと談笑中。


 ……いい雰囲気だ。

 思っていたようなトラブルもなく、このまま無事に終われそうだ――そう思っていたんだけどなぁ。

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